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- 主人公:
- なんだか湿っぽくなってしまった艦長室を後にし、通路に出た。
- 主人公:
- エンジェルとラミエルもそうだが……他の信徒たちのケアが必要だろうな……。
- アザゼルにも相談して……おっ。
- 主人公:
- 今後のことを考えながら歩いていると、通路の向こうから
元気よく手を振りながらやって来る宝蓮が目に入った。 - 宝蓮:
わぁ~お客さ~ん!
- オードリー・ドリームウィーバー:
探してましたわ。
- オードリー・ドリームウィーバー:
夏の休暇が再開すると聞きましたが、本当でしょうか?
- 本当だよ。
- 主人公:
- 幸い、今回の支部に関連する事件は一日でケリがついた。
- 主人公:
- まだちょっとした後始末が残っているが……せっかくの夏季休暇なんだし、
なるべく早く再開してあげたかった。またいつ休めるのかもわからないし。 - 宝蓮:
お客さん~そーゆーわけで~
- 宝蓮:
この前開くことにしていたファッションショーの名誉審査員として
参加していただけませんか~? - オードリー・ドリームウィーバー:
宝蓮さん、ファッションショーではなく、水着コンテストと言わないと。
- 宝蓮:
あっ、そうだった!
- 宝蓮:
えへへ、水着コンテストです!
- 水着コンテスト?
- 宝蓮:
きっと気に入っていただけると思います~!
私とオードリー先生が心血を注いで準備しましたからね~! - オードリー・ドリームウィーバー:
司令官が是非とも参加して会場に華を添えてくださると嬉しいのですが。
- それはいいけど…。
- 主人公:
- ふといい考えが浮かんだ。
- わかった。参加するよ。
- オードリー・ドリームウィーバー:
グゥレイト!約束しましたからね?
- 宝蓮:
忙しいからって約束やぶっちゃダメですからね~?
- 絶対に参加するよ。その代わり…頼みがある。
- オードリー・ドリームウィーバー:
何かリクエストですか?
- 宝蓮:
ほうほう……?
- 宝蓮:
えへへ、何でも言ってくださ~い!
- 主人公:
- 適当に艦内を歩き回り、艦長室に戻ってきた。
- エンジェルとラミエルは…帰ったみたいだな。
- 主人公:
- 指示はもう出した。最後の後片付けが終わるのは明日。
まだ少し時間があるな……。 - 主人公:
- 何をして過ごそう?
- アザゼルに会いに行こう。
- サラカエルの態度が少し変わった気がする…。
- 他に何かなかったっけ?
- 主人公:
- あの時は……アザゼルに慰められてしまった……。
- 主人公:
- もう少し話がしたくなって、アザゼルの部屋に向かった。
- 主人公:
- アザゼルの部屋の前に到着すると呼鈴を押した。
- アザゼル、いる?
- アザゼル:
……!?は、伴侶!?
- 主人公:
- ドタバタという音と共に、アザゼルの慌てた声が聞こえてきた。
- アザゼル:
しょ、少々お待ちください!!
- あ、うん…ゆっくりでいいよ。
- 主人公:
- 何となくデジャブを感じながら壁に寄り掛かった。
- 主人公:
- 今度はカップトッポギを優に4回は作れそうな時間が過ぎた頃、ドアが少し開いた。
- 終わった?もう中に入って―うわっ!
- 主人公:
- 中に入ろうと覗き込もうとすると、ドアがぴしゃりと閉まってしまった。
- ……アザゼル?
- アザゼル:
あ、あの……伴侶……?
- アザゼル:
本当はもう少し色々と準備しようと思ってたのですが……
は、伴侶が突然いらっしゃったので……。 - アザゼル:
…あっ!!は、伴侶のせいにしているわけではありませんよ!?ただ……
- 入ってもいい…の?
- アザゼル:
……
- アザゼル:
…はい。
- 主人公:
- ようやく部屋に入ると、アザゼルは予想していた服……正確に言うと
俺が来るたびに着ているあの衣装ではなく…… - ……あっ。
- アザゼル:
は、伴侶……?
- アザゼル:
何とか言ってください……
- あ、ごめん。
- 主人公:
- 呆気にとられていた俺はアザゼルにそう言われてやっと我に返る。
- すごく綺麗だよ。本当に。
- アザゼル:
……。
- 主人公:
- ありきたりの何のひねりもセンスもない言葉だったが、
アザゼルはそれだけでも満足したのか微笑を浮かべた。 - アザゼル:
実は、元々はこんなつもりではありませんでした。
- 主人公:
- アザゼルの言葉を聞いて、この前のことを思い出した。
確か「光の降臨」行事を準備している時……言っていた……。 - アザゼル:
本当なら……行事が終わった後に伴侶をこの服で驚かせて……
- アザゼル:
まだ教団の痕跡が残っているカゴシマ支部をお散歩しながら、私が色々説明をして……
- アザゼル:
予め外にセッティングしておいたテーブルで
お洒落な時間を過ごそうと思っていたのです…… - 主人公:
- しかし、支部での出来事を思い出したのか、アザゼルの表情が暗くなった。
- アザゼル:
あっ……、すみません。伴侶は私なんかよりもずっと大変なのに、
また弱音を吐いてしまって……バカみたいですね。 - 気にするな。いつものアザゼルでいいんじゃない?
- 主人公:
- 俺の言葉を聞いたアザゼルは拗ねたのか、頬を少し膨らませた。
- アザゼル:
む……そうですよ。
私はどうせ不器用でいつも失敗ばかりしているおバカな天使です。 - アザゼル:
いつもサラカエルには叱られて、ヴェロニカには小言を言われ……!
- アザゼル:
伴侶だけには……頼りがいのある天使であり、伴侶でありたいのに……。
- 主人公:
- 急にへそを曲げたり、しょんぼりしたりするアザゼル。
その姿を見ていると自然と笑みになってしまうが、 それを堪えながら手を握ってあげた。 - そんなアザゼルが好きだよ。
- アザゼル:
……。
- 俺だけに見せてくれる姿がアザゼルの本当の姿だと思うよ。
- 主人公:
- アザゼルは普段、天使様と呼ばれるに相応しく、
慈愛深くて温かい心を持った天使として皆に好かれている。 - 主人公:
- サラカエルと口喧嘩をしたり、ヴェロニカから小言を言われたりするが……
それは天使たちが家族みたいな関係だからなんだろう。 - 主人公:
- 真剣な顔をしていると思ったら、次の瞬間には俺と目が合っていたり、
からかうとすぐに拗ねる純粋な少女のような姿は俺だけが知っている。 - アザゼル:
……本当、ですか?
- うん。感じないの?
- アザゼル:
もうその力は消えたと言ったじゃないですか。
- 主人公:
- きゅっと締まっていた口元が緩むのを感じ、アザゼルを抱き寄せた。
- 主人公:
- まるで俺の心が伝わったように、アザゼルの口元にも笑みが浮かんだ。
- アザゼル:
伴侶……
- 主人公:
- 眩しいほど真っ白な翼の中でアザゼルと見つめ合う。
- 主人公:
- これ以上話は必要ない。俺たちに言葉なんか必要なかった。
精神感応?そんなんじゃない。 - 主人公:
- 片手でアザゼルの頬にそっと触れる。
- 主人公:
- アザゼルの紅潮した顔がゆっくりと近づき、鼻先が触れそうになった時。
- 主人公:
- 聞こえるはずないのに、アザゼルの心の声が聞こえたような気がした。
これが愛というものなのだとしたら、多分そうなんだろうって…… 不思議と信じることができた。 - 主人公:
- 大体の話は聞いたが……もう少し話をした方がいいだろう。
- 主人公:
- 少し緊張しながらサラカエルの部屋へ向かった。
- 主人公:
- しばらく通路を歩くとサラカエルの部屋の前に到着した。
……が、なんとドアが開いていた。 - 外出中か?
- 主人公:
- 恐る恐る開いたドアから部屋の中を覗くと、俺の目の前に……
- サラカエル:
ふん。救援者か。
- え……
- サラカエル:
ちょうどいいところに来た。今から行こうと思っていたとこ―
- 主人公:
- 慌ててまた頭を引っ込め、ぴしゃりとドアを閉めた。
- 何だ?幻覚……?
- 主人公:
- 一瞬だったが、脳裏に今のイメージが鮮明に焼き付いた……
- 主人公:
- 引き締まっていながらも柔らかそうで、バランスよく鍛え上げられた体。
- 主人公:
- そして、身長に似合うスラリと伸びた脚と上品に突き上がった胸。
- 主人公:
- すべてが印象的だったが、俺が驚いた理由はもちろんそれではない。
- 水着……???
- 主人公:
- ……誰とは言わないが何人かの隊員のせいで、
既に俺の中の「水着の概念」はぶっ壊れているが、 あれは水着だろう…… - 主人公:
- そんなどうでもいいことを考えてしまい、思考が混乱する……。
現実をしっかり見るためにも、もう一度そっとドアを開けると、 微妙な表情のサラカエルと目が合った。 - サラカエル:
救援者、その反応はどういう意味なのだ?
- あ、いや、えっと…
- サラカエル:
言いたいことがあるのなら堂々と言え。
私はどんなことにも答える準備はできている。 - じゃあ…それ、水着??
- サラカエル:
そうだ。
- 主人公:
- ……ここまで自信たっぷりに言われるとは思わなかった。
- ええっと…不敬だったのでは……?
- 主人公:
- なんとか平常心を保ちながら質問すると、
サラカエルはツカツカとこちらに近づいてきた。 - サラカエル:
それで救援者に聖別を頼もうとしていたところだ。
- サラカエル:
新しい教理に一日も早く慣れないといけないからな……。
だが、まだこれは……慣れんな……。 - サラカエル:
救援者の手で聖別してくれるのなら気休め程度にはなるだろう。
- せ、聖別…?
- サラカエル:
……。
- あ…あ~あれね?うん、わかるわかる!ははは…
- 主人公:
- 今すぐにでも審判を下しそうなサラカエルの視線に背筋が寒くなり、
手をブンブン振ってしまった。 - 主人公:
- 何でもいいから何かしないと大変なことになりそうだぞ……これは……
- サラカエル:
ふむ。では頼む。
- よし。じゃあそこにじっとしてて……。
- 主人公:
- サラカエルの……先っちょの羽根をそっとつまみ、祈りを捧げた。
- 主人公:
- 当然だが正式なものはよくわからない……。アザゼルが教えてくれたものと
誰かが言っていたのを聞いて覚えたものを適当に組み合わせた祈祷文だったが、 祈りを終えて、手を離すとサラカエルは満足げに頷いた。 - サラカエル:
感謝する。救援者よ。だいぶ心が軽くなった。
- そ、そうか。それはよかった。
- サラカエル:
それはそうと、私に何か用があったのか?
- あぁ…それは……
- 主人公:
- 心境の変化でもあったのか?と聞くと、サラカエルは鼻で笑った。
- あっ、そういえば聖典は見つかった?
- サラカエル:
燃やした。
- え?燃やした?聖典を?
- サラカエル:
あの場所はすでに堕落し、背教の温床だった。
- サラカエル:
そんな場所にまともな聖典が残っているはずがなかろう。
- でも…エンジェルとかラミエルとか持って―
- サラカエル:
なかった。
- 主人公:
- きっぱりと答えるサラカエル。
- …ありがとう。信じてくれて。
- サラカエル:
……ふん。
- サラカエル:
私はアザゼルを信じる。世話を焼かせても、子どもじみた真似をしても、
熾天使は熾天使だ。 - サラカエル:
アザゼルの信仰は本物であり、その魂は澄み切っている。
- サラカエル:
そんなアザゼルがお前を、救援者を、心の底から信じている。
- サラカエル:
我々とこの世界を救うと信じている。
- サラカエル:
そんな者を信じられないで……何が真の信仰か。
- わかった。その想いに応えるよ。
- サラカエル:
応えるだけではダメだ。証明するのだ、救援者よ。
- 主人公:
- 相変わらず硬い口調だったが、昔のような威圧感は不思議と感じられなかった。
- 主人公:
- これは……とりあえず峠は越えたと思ってよさそうだな……。
- そうだ。水着コンテストには参加するの?
- サラカエル:
そうだ。ヴェロニカから頼まれた。
- そうか。頑張って。綺麗だよ。
- サラカエル:
……。
- ど、どうした?
- サラカエル:
そういう甘い言葉でアザゼルを誘惑したのか?
- え?いや、それは……
- 主人公:
- それに関しては俺も言葉を濁すしかない……。
するとサラカエルはニコリと笑って俺に近づいた。 - サラカエル:
ただ気になっただけだ。責めているわけではない。
- サラカエル:
ふん……悪い気分ではない。
- サラカエル:
…救援者。私に祝福を与えてくれ。
- 祝福?え~っと……天上の光よ―
- サラカエル:
それではない。
- サラカエル:
私を……抱け。
- ……
- 主人公:
- 予想外の言葉に何も言えずにいると、サラカエルは口元に微笑を浮かべた。
- サラカエル:
信仰は盲目の如し。信じると誓った以上、救援者の全ての行動には意味がある。
- サラカエル:
お前が救援者であり、私が救援者の剣である以上……
ただの愛を分かち合う行為も私にとっては祝福だ。 - サラカエル:
私は今日、その祝福を通して……一人の信徒として、
そして女性として……再び生を受けるのだ。 - 主人公:
- 気のせいか依然として堂々と話しているサラカエルの顔が
少し赤くなっている気がした。 - 主人公:
- 最初の印象のせいか今までは恐る恐る接してきたが、
サラカエルもみんなと変わらないことに今更気が付いた。 - では祝福を…改めて言うと何だか照れるな…
- サラカエル:
今さら何を言っている。
数か月前、私が救援者の罪を一つ一つ洗いざらいに してやった時のことを忘れたのか? - はは…。
- サラカエル:
故に恥じる必要などない。
- サラカエル:
私は救援者の剣。どんなことでも私は喜んで受け入れる。
- 主人公:
- そこまで言うとサラカエルは抵抗する気がないことを示すように、
両腕を背中に回し、ゆっくり目を閉じた。 - 確かにどこか遠慮していた気がする。
- 主人公:
- そっと肩を掴み、顔を近づける。
サラカエルの綺麗で長いまつ毛が微かに震えた。 - 主人公:
- う~ん……むむむ……
- ヴェロニカに会いに行くか?
- 聖なるパワーを感じる…。
- 他に何かあったはず…。
- 主人公:
- 普段からアザゼルとサラカエルの間に挟まれて苦労しているヴェロニカだが、
今回は特に大変だったに違いない。 - 主人公:
- 会って話を聞いてあげよう。
- 主人公:
- 本人の部屋にも、アザゼルとサラカエルの部屋にもヴェロニカの姿はなかった。
- どこに行ったんだろ……あっ。
- 主人公:
- ふとヴェロニカが行きそうな場所が頭に浮かんで、そこに向かった。
- 主人公:
- 予想通り、元々「光の降臨」が開かれることになっていた講堂で
ヴェロニカを見つけた。 - よっ。
- ヴェロニカ:
救援者様。
- 主人公:
- 後ろから声をかけると、まるで俺が来ることをわかっていたかのように
ヴェロニカはペコリとお辞儀をした。 - 休まないで1人で準備してたのか?
- ヴェロニカ:
他の方は戦闘の後始末でお忙しいですから。
- アザゼルとサラカエルは?
- ヴェロニカ:
……。
- 主人公:
- 表情に変化はなかったが、なんだかいつもと違った雰囲気を感じ、
話題を変えることにした。 - すごい量だな。手伝うよ。
- 主人公:
- 俺が山積みにされたお菓子を小分けにし始めると、
ヴェロニカは少し戸惑っていたが無言で隣に座った。 - ヴェロニカ:
…ありがとうございます。
- 主人公:
- 講堂にはしばし、お菓子の包装がカサカサと擦れ合う音だけが響く。
- 主人公:
- 結構な時間を無言で作業したが、特に居心地が悪くなったり、
気まずい雰囲気にはならなかった。 - 主人公:
- 一緒に過ごしてきた時間が長いのもあるだろうが、
ヴェロニカは誰にでも空気を合わせてくれるから、気が楽なのかもしれない。 - ヴェロニカ:
…アザゼル様とはその後、お話しされましたか?
- え?まだしてないよ。
- 主人公:
- チョコレートの数を数えていると突然聞かれ、
普通に答えるとヴェロニカの視線がすっと俺に向いた気がした。 - ヴェロニカ:
会って話を聞いてあげた方がいいと思います。
熾天使アザゼル様は今回のことで大きく成長したでしょうけど…… - ヴェロニカ:
救援者様の伴侶は気苦労が多いと思いますから。
- うん。そうする。でも……
- 主人公:
- 「今はヴェロニカを労いに来た」と俺が言うと、
小袋にリボンをかけていたヴェロニカの指が止まった。 - ヴェロニカ:
……そうでしたか。
- 主人公:
- 微かに笑みを浮かべてヴェロニカは再び手を動かし始めた。
- ヴェロニカ:
無理は申し上げませんが、休暇中……少しだけお時間をいただけますか?
- ヴェロニカ:
もしよかったら1日ほど、一緒に過ごしてくださいますでしょうか?
- …うん。そうしよう。
- 主人公:
- ヴェロニカから初めてのデートの申し込みか……。
何だか謎の達成感に包まれながらお菓子の小分けを続けていると、 ふと良い考えが浮かんだ。 - そうだ。オードリーに水着の話をしておくよ。
- ヴェロニカ:
大丈夫です。水着なら持っています。
- え、本当?
- ヴェロニカ:
はい。出撃した時に気に入った衣装やアクセサリーを収集するのが趣味なので。
- …全然知らなかった……。
- ヴェロニカ:
あえてお見せする必要もないと思っていましたから。
- ヴェロニカ:
…今までは。
- そっか。楽しみにしてるよ。
- ヴェロニカ:
はい。……あっ。
- ヴェロニカ:
私服なら……よく気にされていた私の信仰心を確認できるかもしれませんね?
- べ、別に信仰心を疑ったわけじゃ……
- 主人公:
- ヴェロニカは説得力のない言い訳を無視して、俺の手をゆっくりと引き寄せた。
- ヴェロニカ:
いつかはその時が来るでしょうが……今、先に確認されても構いませんよ。
- 主人公:
- そう耳元で低く囁くヴェロニカの髪の毛が、俺の頬をくすぐった。
- 主人公:
- いつのまにか、俺の手は真っ白な太ももに触れていた。
抵抗できない、いや抵抗したくない……ヴェロニカにされるがまま、 勝手に俺の手はゆっくりと……服の裾を捲し上げていく。 - 主人公:
- 裾が今まで到達したことのない禁断の領域にまでくると、
ヴェロニカは急に手を止めた。 - ヴェロニカ:
すべては……救援者様のご意思のままに。
- 主人公:
- 少しいたずらっぽい調子で言うと、ヴェロニカの唇が耳に触れた。
- 主人公:
- 環境がその人となりを作るという言葉がある。
ある日突然最後の人間として、抵抗軍の総司令官を務めることになった俺が 身をもって実感している言葉だ。 - 主人公:
- 名目上だろうが何だろうが、救援者になって長いからだろうか……
何とも言えない予感のようなものが一瞬脳裏をよぎる。 - ……来る!
- 主人公:
- 俺の独り言と同時に艦長室のドアが勢いよく開いた。
- サラカエル:
救援者はいるか!
- アザゼル:
きゃっ、サラカエル……!
- サラカエル:
いたな!今日は私が救援者の剣として新しく生まれ変わる日となるだろう!
- アザゼル:
ちょ、ちょっと待ってください!私の話を聞いてください……!
さっきのそれはちょっと言い過ぎただけで― - サラカエル:
何!?私を馬鹿にしていたのか!?
- ど、どうしたんだ……?
- 主人公:
- アザゼルはさておき……、サラカエルがあんな服を……?
- 主人公:
- いつの間に入ってきたのか、ヴェロニカは混乱に陥った俺の隣に
静かに立っていた。 - ヴェロニカ:
……。
- 主人公:
- 毎度お約束のようになってきたが、ヴェロニカと視線を交わし合い、
一体どういうことなのか把握するため、天使達の話に耳を傾けた。 - サラカエル:
理解し難い。なぜダメなのだ?
- サラカエル:
私は教団の審判者。救援者の祝福を受ける資格は十分にある!
- アザゼル:
そ、その……
- アザゼル:
と、とにかくダメです!
- ヴェロニカ:
アザゼル様。独占欲と嫉妬は自然な感情ですが、
度が過ぎると闇に染まる可能性を高めます。 - アザゼル:
……!
- サラカエル:
はっ。そういうことだったのか!
- サラカエル:
アザゼル、お前は……審判者が救援者の寵愛を受けることではなく、
救援者という男が私という女に夢中になることを心配していたのだな。 …面白い……。 - アザゼル:
うっ……
- …………。
- サラカエル:
さらに興味が湧いてきたぞ……救援者よ。
- う、うん?
- サラカエル:
お前の祝福で私を満たしてくれ。
その溢れ出る救援の力を通して審判者サラカエルは 救援者の剣として生まれ変わる! - アザゼル:
サラカエル……それくらいで……。
- ヴェロニカ:
とんでもないお話をしてるでしょう?
- 主人公:
- 何が何だか分からない状況の中、俺は必死に記憶を辿る。
- 主人公:
- 確か……初めて夜を共にした時、アザゼルが恥ずかしがりながら
「これは祝福に過ぎません」って言ったような気もするし…… - サラカエル:
来い、救援者よ。お前の剣はいつでも準備ができている。
- 主人公:
- 助けを求めてヴェロニカを見るが……すべてを諦めた表情で
首を横に振るだけだった。 - 主人公:
- ……そうとなれば仕方ない。
- …よかろう審判者よ!祝福でその体満たしてやろう!
- サラカエル:
良い気概だ。
- アザゼル:
は、伴侶……
- お前も一緒だ!熾天使アザゼル!
- アザゼル:
あっ……
- 審問官ヴェロニカも―
- 主人公:
- ワザとらしい演技を続けようとしたが、ヴェロニカの冷ややかな視線を感じ、
何とか堪えていた羞恥心が一気に押し寄せてきた。 - はい……この辺りでやめましょう。
- ヴェロニカ:
……お好きになさってください……
- 主人公:
- 恥ずかしくて笑ってしまう俺を見て、ヴェロニカが深くため息を
ついていると、アザゼルとサラカエルが言い争いを再開した。 - 主人公:
- よし。あの2人はいつものようにヴェロニカに任せて、俺はこの隙に……
- ヴェロニカ:
……光よ。どうか私をお許しください。
- うおあっ!?
- 主人公:
- こっそりと艦長室を抜け出そうとしたが、ヴェロニカに首をひっ掴まれ、
ベッドまでズルズルと引きずられてしまった。 - …お、おい、ヴェロニカ!?
- ヴェロニカ:
私の忍耐にも限界があります、救援者様。
- ヴェロニカ:
あの天使達のせいで、このまま闇に身を任せて堕落してしまう前に……
私に救援者様の祝福をお授けください。 - サラカエル:
異端審問官が審判者よりも先に祝福を受けるというのか……!
- アザゼル:
ヴェ、ヴェロニカ…!?
- ちょっと待った。みんな俺の話を―!
- 主人公:
- アザゼルが慌てて俺の方に飛んできたかと思ったら、
顔に柔らかい感触を感じると同時に目の前が真っ暗になった。 - アザゼル:
きょ、今日はダメです!水着コンテストにも出られなくなったので、
今日は伴侶と一緒に過ごすんですー…! - 主人公:
- ……光がはっきりと仰るに、あなたの子孫である天使達は
慈愛と慈悲の象徴である。 - ヴェロニカ:
審問官が天使よりも先に祝福を受けてはならないという御言葉はございません。
- ヴェロニカ:
それに、アザゼル様のせいで目の前に闇が広がっているようです。
- 主人公:
- 子羊が道に迷い、闇に染まっても、再び光の懐へと還るだろう……。
- んっ、んんッー!
- アザゼル:
ん……
- アザゼル:
ふふっ、伴侶……くすぐったい―なっ!?何をしているのですか!サラカエル……!?
- 主人公:
- 終わり知らぬ光の恩寵に感謝し、求道の道を進まん……。
- サラカエル:
ふん。好きなだけそうしてるがいい。
- サラカエル:
祝福を受けるのに上半身は必要ない。
- 主人公:
- いくら俺の身体能力が強化されているとしても、
審判者に抗うことは不可能だ。 - 主人公:
- 俺に今できることと言えば、光に祈りを捧げることしかない。
ああ…… - 主人公:
- 光よ。貴方の使徒と子孫は地上で幸せに過ごしています……。
- んんっ―!!!
- 主人公:
- アザ、アザ、アザゼル……。
- 主人公:
- そうだなぁ~……何をしよう……?
- 軽く散歩でもしよう。
- …昼寝でもするか。
- う~ん、何かないものか……。
- 主人公:
- 気分転換に少し歩くとするか。
- 主人公:
- 主人公:
- 艦長室を出ると、少し離れたところでポイとドラキュリナが
何かこそこそと話しているのが見えた。 - 何してるの?
- 主人公:
- 俺の声を聞くと、ドラキュリナは一瞬体をビクンとさせた。
そして、意を決したような顔でスタスタとこちらに歩いてくる。 - ドラキュリナ:
ちょっと、人間!
- 何でしょ?
- ドラキュリナ:
あ、あのさ、ほら……あの……だ…だから……
- ドラキュリナ:
えっと……、こ、今回あなたもすごい大変だったじゃない……?
- ドラキュリナ:
だから……
- ……?
- 主人公:
- 俺が不思議そうな顔をしていると、それをじっと見守っていたポイが
駆け寄ってきて腰にまとわりついた。 - ポイ:
ニャハハ~、ご主人様ぁ♡
- ポイ:
ご主人様はこの子を主人と認めてぇ~お仕えすることにしたんですかぁ~?
- 仕える?
- ドラキュリナ:
バッ!バカ!そんな風に言ったら話がこじれるでしょ!!
- ポイ:
え~?ポイは賭けの内容の通りに言っただけだけどぉ~?
- ポイ:
ニャハハ~!じゃあポイの勝ちだね~予想通り~
- ドラキュリナ:
ぎゅぬぬぬぬぬ……!
- ドラキュリナ:
まだ終わってないわ!休暇はまだ残ってるし!!
- ポイ:
えぇ~?ポイにはもうこの賭けは終わったように見えるんですけどぉ~
- ドラキュリナ:
うるさいうるさいうるさい!黙りなさいよ!まだわかんないでしょ!?
- ドラキュリナ:
人間、そうよね!?あなた、私のこと好きよね!?
- ポイ:
ニャハハ~!ご主人様ぁ~♡ポイは今、何を着てるでしょ~か♡
- …あぁ、そうだったな。
- 主人公:
- 騒動になる前にしたポイとの約束を思い出した。
でも……なんだかドラキュリナがワナワナ震えてるんだけど…… - ドラキュ…―うわっ!ポイっ!?
- ポイ:
ニャハハ~!
- 主人公:
- するといきなり、ポイは俺の手を掴んで走り出した。
- 主人公:
- あっという間に艦長室に到着してしまった……。
立場上、一応注意をしようとしたら俺の唇を人差し指で押した。 - ポイ:
しー…。すぐに追いかけてきますよ♡
- 主人公:
- 「あの子、地獄耳ですから……」と囁いたポイは
俺の机からメモとペンを持ってきた。 - ポイの筆談:
[ご主人様、ポイをめちゃくちゃにしたいって言ってましたよね?]
- 主人公:
- …そんなことを言った覚えはないんだが……。
- 主人公:
- 俺が渋々頷くとポイの笑顔がニャァ~っとさらに明るくなった。
- ポイの筆談:
[じゃあその後にですね]
- 主人公:
- 気絶したように眠ったポイに布団をかけてあげ、ガウンを羽織った。
- んじゃあそろそろ…
- 主人公:
- ポイがさっき言っていた通り、艦長室のドアを開けると……
- ドラキュリナ:
あ……
- 主人公:
- ドラキュリナが通路にぺたりと座り込んでいた。
そして、紅潮した顔で俺を見上げる。 - ドラキュリナ:
あ……あぅ、えっと……。その、これは……
- 主人公:
- 確か……ポイは「自分にやるみたいに」とか言ってたが……
さすがにちょっと気を付けてあげないとダメだろう…… - ドラキュリナ:
に、にんげ……きゃっ…!?
- 主人公:
- ドラキュリナの手首を掴んで立ち上がらせ、部屋の中へ入れる。
- 主人公:
- 嫌がればやめようかと思っていたが、特に抵抗も何もせず、
黙って引っ張られてきたドラキュリナを壁に追いやった。 - 嫌なら言え。俺は本気だ。
- 主人公:
- 俺の言葉を聞いて、ドラキュリナの視線は
ポイが気絶している乱れたベッドに向かった。 - ドラキュリナ:
……。
- じゃあ……途中でもいいから。
- ドラキュリナ:
んあっ……
- 主人公:
- 僅かに頷いたドラキュリナの腰に少し荒っぽく腕を回して抱え上げると、
鋭い牙の隙間からなんとなく嬉しそうな声が漏れた。 - 主人公:
- 今までどうってことなかったが、意識した途端に眠気が襲ってきた。
やっぱり無理し過ぎたのかな……。 - 主人公:
- パネルを操作し、自分のステータスを「睡眠中」に変更すると、
小さな音を立てて艦長室のドアに鍵がかかった。 - そうそうこれこれ、すっかり忘れてた。
- 主人公:
- これでも入ってくる奴は入ってくるだろうけど……
今日1日くらいは大丈夫なはず。せっかくアザズに頼んで作ってもらったんだ。 こういう時に使わないでいつ使うって話だ。 - う~……ねむ……
- 主人公:
- 艦長室の隅っこに置かれたベッドに横たわると、自然に瞼を閉じてしまった。
- 主人公:
- 何かを考える暇もなく、そのまま深い眠りについた。
- ??:
この下に例の…。
- ??:
ふふっ、そうです。まさにここに……人類の可能性が眠っています。
- 主人公:
- どれくらい寝ていたのだろうか……?
コソコソと誰かが喋っている声でぼんやりと目が覚めた。 - ??:
さぁ、では……確認しましょうか……
- ??:
心臓が止まってしまったらどうしましょう……
- ??:
ああ、ご主人様…。
- 待て待て待て……!
- 主人公:
- 下半身にとてつもなく不安な動きを感じ、慌てて飛び起きた。
- 解体者アザズ:
あら、起きちゃいました?
- これで起きない方がおかしいだろ……
- 主人公:
- いつの間にか半分ほど下げられたズボンを履き直す俺を見て、
アザズはにっこりと笑った。 何でそんなに楽しそうなんだ…… - 解体者アザズ:
ふふ、そうですか?私なら多分起きませんよ?
「また」いらっしゃる時は試してみてください。 - んんっ!ごほっ!ごほっ!
- 主人公:
- 急に部屋に行った時の話をし出したので、咳ばらいでサインを送ったが、
それを無視してアザズは話を続けた。 - 解体者アザズ:
今思い返してみると少し残念な気もします。
あの時寝ていたなら、新たな経験ができるチャンスだったのに…… - 解体者アザズ:
ふふっ、でも司令官は本当に紳士ですよね。終わってもそのまま帰ったりせず、
次の日まで一緒にいてくれましたからね。 - 解体者アザズ:
正直、忙しいでしょうし、すぐ次のお部屋に行くのかと思ってました。
- …それはからかってるのか?
- エタニティ:
その時に……確信されたんですね。
- エタニティ:
人類の可能性を。
- 解体者アザズ:
そうです。私は……無限の可能性と希望を見たんです。
- エタニティ:
ああ……
- エタニティ:
やはり生きていらっしゃるご主人様……、とても素敵です……
- 主人公:
- さっきから足に絡まっていたエタニティの手にどんどん力が加わっていく……。
- うわっ―ちょ、ちょっと待て……
- 解体者アザズ:
ですよね?人生というのはとても素敵なものです。
- エタニティ、ちょ…っと放してくれ…!
- 主人公:
- 生きていらっしゃるご主人様が生きていらっしゃったご主人様に
なるかもしれないと気づいた……のかどうかは分からないが、 エタニティは急に手の力を抜いて、俺の腹の上にちょこんと座った。 - 主人公:
- 無言で俺を見下ろす瞳は純粋で強烈な愛情みたいなものを感じた。
- ふぅ……ありがとう……。
- 主人公:
- ゆっくりと上体を起こす。恥ずかしがって退くと思ったのだが、
意外にもエタニティはそのままそっと抱きついてきた。 - 解体者アザズ:
あ、もしかして睡眠の邪魔でした?
- 今さら聞くぅ……?
- 解体者アザズ:
すみません。司令官に夢中になっていて、今気がつきました。
- …そう……もう目が覚めた。
- エタニティ:
あ……
- 主人公:
- 身体を入れ替えてエタニティをベッドに寝かせると、
小さな唇から期待交じりの嘆声が漏れ出た。 - 解体者アザズ:
ううぅ~ん……では私はちょっと寝て待ってま―ふにゃっ!?
- 主人公:
- この事態の犯人が他人事のように笑いながらベットから降りようとしたので、
腰に腕を回して捕まえ、そのままエタニティの横に寝かせた。 - アザズがそんなに驚いたところ、初めて見たかも。
- 主人公:
- 俺の言葉を聞いて驚いていたアザズの目がゆっくりと細くなった。
- 解体者アザズ:
はい。私もこんなにドキドキするのは初めてです。
- 主人公:
- ゆっくりと姿勢を低くして、唇と唇が触れようとした瞬間、
早くも恍惚とした声が聞こえ、思わず二人は止まった。 - エタニティ:
あぁ……ご主人様の体臭…。
- エタニティ:
死よりも安らかで……生よりも素晴らしい……
- 主人公:
- いつの間にか俺の枕に顔を埋めて深呼吸をするエタニティを見て、
アザズと一緒に笑ってしまった。 - 解体者アザズ:
ふふ。やっぱり寝ちゃいますか?
- ふむ……。
- 主人公:
- 今度は言葉の代わりに、別の方法で答えてみることにした。
- 主人公:
- ……何か…何か……あっ……
- そうだ、龍が帰ってきてるんだった。
- やっぱり夏の休暇は地獄訓練である!
- いちから考え直すか…
- 主人公:
- 本来の任務を一旦中断させているから、まだオルカにいるはずだ。
- 無敵の龍:
主、休暇中ではなかったのか?
- 主人公:
- 部屋に行くと、龍は少し驚いたがすぐに笑顔で俺を迎えてくれた。
- うん。これから休むつもり。仕事中だった?
- 無敵の龍:
任務が中断されたからな、次の計画を練っていたところだ。
- 何か手伝おうか?
- 無敵の龍:
大丈夫だ。小官もここまでにしようと思っていた。
- そうは見えないけど……。
- 無敵の龍:
小官が仕事をすれば、主も一緒に働こうとするではないか。
- うっ……否定できない。
- 主人公:
- 俺が言うと、微笑を浮かべて龍が近寄る。
- 無敵の龍:
久方ぶりにこうして主と顔を合わせる。
- ごめん…ちょっと間が空いちゃったな。
- 主人公:
- 慣れた手つきで俺の服の乱れを整えながら、龍は小さく首を横に振った。
- 無敵の龍:
小官はすでに身に余るほどの愛をもらっている。
- 無敵の龍:
しかし……
- 無敵の龍:
うちの隊の者達が主を……熱烈に恋しがっている。
- 主人公:
- しまいには髪まで整えてくれた龍が慎重に口を開いた。
- 無敵の龍:
少しで構わない。うちの隊員達と過ごしてあげてはくれないか?
- …俺はもう少し龍と二人きりでいたい。
- 分かった。龍も一緒に行こう。
- 無敵の龍:
……。
- 無敵の龍:
……卑怯だぞ。
- え?どうして?
- 無敵の龍:
それを言われてしまったら……小官が断れないと分かっているだろう……
- 部隊員達とは休暇中に必ず時間を作るよ。
- 無敵の龍:
…分かった。
- 主人公:
- その言葉を聞くと、やっと納得したのか龍の表情が和らいだ。
- 無敵の龍:
では少しだけ待ってもらいたい。
- 無敵の龍:
まずは風呂を沸かそう。温かいお湯に浸かって疲れを流した方が良かろう。
- いいね。…ってことは龍も一緒だろ?
- 無敵の龍:
んなっ……、何を言っているんだ……そ、それはまだ……
- 無敵の龍:
まだ、恥ずかしい……。
- 主人公:
- 龍の部屋の簡易浴室で入浴を終えて出てくると……
- お、いつの間に……
- 無敵の龍:
ソワン料理長に少し手伝ってもらった。
- 主人公:
- きれいに並べられた料理を見たら、急にお腹が空いて来た。
- 主人公:
- 軍事的な話や今後の方針などを冗談を交えて雑談しながら一緒に食事をした。
- 主人公:
- 食器の後片付けをしようとすると半ば強制的にソファーに座らせられた……。
そして、片付けを済ませてきた龍は恐る恐る俺の隣に座った。 - 無敵の龍:
……。
- 主人公:
- 無言でゆっくりと俺にもたれかかってくる龍。その肩を抱き寄せた。
- 主人公:
- 顔にかかっていた吸い込まれるような黒髪を耳の後ろにかけてあげると、
少し前まで大声で部隊を率いていた海軍の隊長は、 夢見る少女のようにそっと目を閉じた。 - 無敵の龍:
無理な頼みをしてしまって申し訳ない。
- 無理じゃないよ。俺も会いたかった。
- 無敵の龍:
ふふ、隊員達はたぶん近くの海岸で休暇をとっているはずだ。
- MH-4テティス:
あっ…?司令くん……!?
- AG-1ネレイド:
しれいかぁぁぁ~ん!
- MH-4テティス:
- ビーチに向かうと、俺を見つけたホライゾンの隊員達が向こうから
駆け寄ってきた。 - P-3Mウンディーネ:
司令官だ…………あっ……ふ、ふん!何の用?寂しくて会いに来たの?
- MH-4テティス:
ふん。ぜんぜん遊びに来なかったじゃないですか~!何してたんですか~?
- ごめん。今回はみんなよく頑張ってくれた。
- 主人公:
- ホライゾンの隊員達が俺をぐるりと囲むと、
あっという間に賑やかな雰囲気になった。 - 主人公:
- そんな隊員達とは少し離れたところで、何やらもじもじしている
セイレーンと目が合った。 - AG-2Cセイレーン:
あ……
- AG-2Cセイレーン:
あの、司令官……
- ほら、おいで、大変だったろ。
- AG-2Cセイレーン:
……。
- MH-4テティス:
あっ……、これは……!
- P-3Mウンディーネ:
今よ!副艦長。本を読んで練習した通りに……!
- 主人公:
- 隣にいたウンディーネが囁くと、何やら深刻な表情で悩んだセイレーンは、
意を決したのか短く息を吐いた。 - AG-2Cセイレーン:
司令官、私……。
- AG-2Cセイレーン:
……。
- AG-2Cセイレーン:
…本当に、本当に本当に……会いたかったです。
- P-3Mウンディーネ:
えっ…。
- AG-2Cセイレーン:
確かに……勉強した本では胸の内は隠した方がいいって書いてました……。
- AG-2Cセイレーン:
でも、それじゃあダメな気がして……。
- AG-2Cセイレーン:
正直に、会いたかったって……言いたかったんです。
- そか。俺もすごく会いたかった。
- AG-2Cセイレーン:
ぁぅ……うれしい……
- MH-4テティス:
え……?そんなセリフで良かったんなら私たち何のために練習させられてたの!?
ねぇ!ウンディーネ!ただ恥ずかしい思いしただけじゃないですか~! - P-3Mウンディーネ:
れ、練習した通りに言えばもっと上手くいったはずなの!
- AG-1ネレイド:
司令官!ネリネリもすごく会いたかったよ~!
- P-3Mウンディーネ:
ネリ!?順番に言うって言ったでしょー!
- 主人公:
- ネリに続いて、他のみんなも一気に引っ付いて来た。
- 主人公:
- 両腕にはウンディーネとテティス、首にはネリ……
- 主人公:
- しばらく躊躇していたセイレーンまで俺の腰に抱きついた。
- 主人公:
- 隊員達を全身にぶら下げて、合体ロボのようになってしまった。
それを見て笑っている龍にも一応聞いてみることにした。 - …龍も来るか?背中なら空いてる。
- 無敵の龍:
ふふ、小官は遠慮する。
- AG-1ネレイド:
司令官!一緒に泳ご~!
- AG-1ネレイド:
向こう岸まで誰が一番早く到着するか競争しよ~!!
- MH-4テティス:
バカじゃないの!?そんなことしてたら疲れて後で
何も出来なくなっちゃうじゃないですか! - AG-1ネレイド:
え?へへ、大丈夫だって~!ネリネリはそれくらいじゃバテないって~
- P-3Mウンディーネ:
うん……し、司令官も…それくらいじゃ疲れないわ。うん……。
- 無敵の龍:
遊ぶのもいいが、先に食事をするのはどうだ?
- 無敵の龍:
小官が簡単に軽食を用意してこよう。
- …逃げるつもりじゃないよな?
- 無敵の龍:
まさか……。みな、主がいてくれて喜んでいる。そんなわけがなかろう。
- AG-1ネレイド:
え~ネリネリは隊長と遊ぶのも好きなのに~!
- 無敵の龍:
久しぶりに会う主だ。今まで会えなかった分、今日は思う存分甘やかしてもらえ。
- 無敵の龍:
あっ、それから……
- 無敵の龍:
もしよければ、今日はホライゾンの宿所で泊っていくのは……どうだ?
- AG-2Cセイレーン:
あっ……!
- AG-2Cセイレーン:
はい!とっても、いい考えだと思います!
ベッドなら部屋を少し片付ければ司令官も一緒に眠れるはずです! - AG-1ネレイド:
ネリネリも賛成!
- AG-1ネレイド:
へへへ~!ネリネリは司令官に腕枕してもらお~っと!
- MH-4テティス:
じゃ、じゃあ……反対側の腕は―
- AG-2Cセイレーン:
私も!
- MH-4テティス:
え?
- P-3Mウンディーネ:
へ?
- AG-2Cセイレーン:
反対側は…私が……
- AG-2Cセイレーン:
…あぁ!えっと……他に希望される方がいなかったら……の話……です……
- AG-1ネレイド:
うわぁお……。
- AG-1ネレイド:
ネリネリ、副艦長がこんなに積極的なの初めて見たかも。
- AG-2Cセイレーン:
うぅ……
- P-3Mウンディーネ:
い……いいわ。全然計画通りじゃないけどいい感じだわ!
- P-3Mウンディーネ:
やっぱり本気で会いたいって思ってたからかしら?
- AG-1ネレイド:
あぁ、そういえば!
- AG-1ネレイド:
ウンディーネ、司令官に会ったらやりたいこと、
思いついたらいちいちメモってたよね!?計画ってそれ? - MH-4テティス:
うう~ん……副艦長、司令くんに何をしようとしてるんですか!?
- AG-2Cセイレーン:
……!
- AG-2Cセイレーン:
テ、テティスさん……!
- 無敵の龍:
皆があんなに楽しそうな姿は……本当に久しぶりだ。
- 龍はいいのか?
- 無敵の龍:
小官は……これで満足だ。
- 主人公:
- そう言うと龍に波打ち際の近くまで手を引かれ、砂の上に腰を下ろした。
- 主人公:
- 俺の手を握りながら肩に頭を乗せた龍は、
楽しそうにはしゃぐ隊員達を見つめている。 - 主人公:
- ネリが呼びに来るまで、俺たちは手を繋いだまま皆を眺めていた。
- 主人公:
- ……今何て言った?
- はは……、疲れてるみたいだ。
- 主人公:
- 考え直すためにも一度首を振る。さてと……考え直せ、俺……
俺は冷静になればちゃんとした判断ができる……間違えるなよ…… さぁ! - 夏の休暇は地獄訓練!常識だろ!?
- 最初から考え直してみよう!
- 主人公:
- …………。
- 主人公:
- なんだかよく分からないが、これが最後のチャンスだという気がする……。
- 主人公:
- 俺は……
- ちょっとどうかしてたみたいだ。最初から考え直そう。
- …地獄訓練に参加する!
- 主人公:
- そう!……夏の休暇と地獄訓練はもはや同義……!
- 主人公:
- 得体の知れない高揚感を感じ、パネルを操作してマリーにメッセージを送った。
- T-2ブラウニー:
イフリート兵長!
- T-2ブラウニー:
砲は私に任せてくださいっすー!他の重いものも私が背負うっすよ~!
- T-3レプリコン:
ブラウニー、何言ってるんですか!!
- T-3レプリコン:
私も手伝います!私達はスチールラインです。苦楽はすべて分かち合うものです!
- M-5イフリート:
こいつら……。
- T-50PXシルキー:
やっぱりスチールラインの戦友愛は最高ですね……
- T-50PXシルキー:
ですよね、イフリート兵長?
- M-5イフリート:
私はいつもあんなこと言ってるけどさ……
スチールラインに配属されたことを後悔したことは一度もないよ…… - M-5イフリート:
……部下に恵まれてるし……今回あんなに褒められたし………
戦友愛と名誉でいっぱいさ…… - AA-7インペット:
へぇ、そうなの?
- AA-7インペット:
だったら任官しなさいよ。私が面倒見てあげるから。
- M-5イフリート:
ああっと!目の前に高台があるぞぉぉ……!
- M-5イフリート:
前へ~進めぇぇぇ…!
- 不屈のマリー:
素晴らしい。部隊の士気が高まっている!
- C-77レッドフード:
元々の計画では休暇は1週間でしたが……。
- C-77レッドフード:
司令官閣下とマリー隊長のご配慮により2週間も休めると言ったところ、
隊員達はそれはそれは喜んで今までにない盛り上がりを見せましたから。 この地獄訓練にも身が入るというものでしょう!! - そ、そうなのか?
- 主人公:
- 地獄訓練に参加するとマリーに伝えるや否や、スチールラインの隊員達が
押しかけてきて、必死に「考え直してほしい」と涙ながらに懇願してきたはずだが…… - ……ところでだ。
- C-77レッドフード:
はい、閣下。
- 不屈のマリー:
何でしょうか。
- いつもこんな…全力疾走…ふぅ…40kmも…やってるのか…?
- C-77レッドフード:
閣下……お気づきでしたか!
- 不屈のマリー:
申し訳ございません閣下。閣下が参加されると聞き―
- やっぱり違うんだろ…?はは……よかっ―
- C-77レッドフード:
略式で進行した我々の過ちをお許しください!
- C-77レッドフード:
今からでも正規のやり方で!砂袋を持ってきます。気をつけぇ!!
- え?砂袋?
- C-77レッドフード:
はい!閣下の砂袋は恐れながら、自分が装着して差し上げます!
最初なのでまずは40kg… - 主人公:
- 半ば強制的に砂袋が装着され、さらにランニングが40km追加されたとの
悲報が入ってきた。 - 主人公:
- その後に続いた訓練メニューは文字通り地獄そのものだった……。
記憶から消したいレベルで、さっさと忘れるためにも思い出すのをやめた。 - 主人公:
- ……地獄訓練……最高……。
- ??:
閣下。入ってもよろしいでしょうか?
- うん…。
- C-77レッドフード:
あの……閣下。大丈夫ですか?
- 主人公:
- 訓練を終えて、宿営地で食事を済ませ、
テントで気絶しているとレッドフードがやって来た。 - C-77レッドフード:
どうぞ、氷嚢です。
- あ…、ありがとう。
- 主人公:
- 氷嚢を受け取ると、まだプルプルと震えている脚に当てる。
思わず呻き声を上げてしまった。 - あぁぁぁ……気持ちいい。
- C-77レッドフード:
も、申し訳ございません。
閣下が訓練に参加してくださり嬉しくて……つい……。 - 気にするな。皆も同じことをし……ん?
- 主人公:
- 氷嚢で震える脚をマッサージしていると、甘い香りが鼻を刺激した。
- 香水つけてるのか?
- C-77レッドフード:
こ、これは……!
- C-77レッドフード:
じ……自分の汗の臭いで……閣下に不快な思いをさせてはいけませんので……
ですのでほんの少し…… - C-77レッドフード:
ぐ、軍人らしからぬ行動を……!以後気をつけます……!
- いや、いい香りだよ。それより……
- 主人公:
- なぜか酷く緊張しているレッドフードに座るよう勧めて、話をすることにした。
- レッドフードも今回大変だったな。
- C-77レッドフード:
とんでもありません!この程度の訓練……
- 訓練も大変だったけど、今回の作戦の方だよ。
- C-77レッドフード:
あ……
- C-77レッドフード:
自分はただ閣下のご命令を部下達に伝えただけであります。
- C-77レッドフード:
すべては誉れ高く戦ってくれた兵士達のおかげ。そして……
- C-77レッドフード:
この度、特別に長期休暇を認めてくださったことに感謝しております、閣下。
- それくらいは当然だよ。
- C-77レッドフード:
…ありがとうございます。
- 主人公:
- ペコリと頭を下げるレッドフードを見て、
この前きちんと伝えられていなかったことを思い出した。 - そうだ、この前バタバタしててちゃんと言えなかったけど…
- C-77レッドフード:
はい、何でしょうか?
- 水着。すごく似合ってる、可愛い。
- C-77レッドフード:
うっ……!
- 主人公:
- レッドフードの顔が一瞬にして真っ赤になった。
- 主人公:
- しばらく指をもじもじさせていたレッドフードはゆっくりと口を開いた。
- C-77レッドフード:
あの……閣下。誤解なさらないでお聞きください。
- C-77レッドフード:
み、水着姿で……こ、このように氷嚢を持ってきたのにはワケがありまして……。
- C-77レッドフード:
部下達があまりにもうるさく言うものでして……あっ!ですが……
か、必ずしもそれだけが理由ではありません。その……ですから…… - …ふふっ。それ、スチールラインの伝統なのか?
- C-77レッドフード:
あぇっ……。
- 主人公:
- 鍛えられた筋肉によって、硬さとしなやかさを兼ね備えた体を抱き寄せる。
- テントだけど……大丈夫か?
- C-77レッドフード:
……閣下となら……、どこでも構いません。
- 主人公:
- 一生懸命マッサージをしてくれたおかげで、筋肉痛もいくらか落ち着いてきた。
- 主人公:
- 疲れもとれたし、むしろ訓練前よりスッキリしている気がする。
- これなら動けるかな……あっ……。
- 主人公:
- レッドフードは緊張しきっていて気が付いていないようだが、
さっきからテントの外で誰かがヒソヒソと話す声が聞こえている。 人数は……少なくないな…… - ……それはまた後で考えることにしよう。
- 主人公:
- 体力が残っていることを願いながら、
緊張と期待で火照ったレッドフードの頬を優しく撫でた。