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オベロニア・レア
あ、ご主人様。

Transcription

  1. オベロニア・レア:

    あ、ご主人様。

  2. オベロニア・レア:

    今日も医務室に行かれるのですか?

    1. うん。そうだよ。
  3. 主人公:

    - そんな風にしばらくの間、医務室で……正確にはティタニアの隣で時間を過ごした。

  4. 主人公:

    - 相変わらずほとんど無視されているが、たまに無言で睨んできたり、冷たいが返事をしてくれることが増えてきた。

  5. オベロニア・レア:

    最近は安定剤の投与量も減りましたし、少しですが姉妹達とも会話するようになったそうです。

  6. オベロニア・レア:

    本当に……ありがとうございます。

    1. いや、本当はもっと早くにこうしないといけなかったんだ。
  7. ダフネ:

    レアお姉さま!ご主人様!

    1. ダフネ?まさか…!
  8. ダフネ:

    ティタニアお姉さまが…!

  9. ティタニア・フロスト:

    はあ、はあ……

  10. ティタニア・フロスト:

    うぅっ……もう、これ以上は……!

  11. ティタニア・フロスト:

    痛い……痛い!…頭が、体が……はあああっ……!

  12. ティタニア・フロスト:

    ……………………………

  13. ティタニア・フロスト:

    …あはっ、あはははは………!

  14. ティタニア・フロスト:

    本当に……バカみたい……私にそんなこと許されるはずが……あうぅ……

  15. ティタニア・フロスト:

    …あはっ、そう…そうよ…我慢する必要なんてない……

  16. ティタニア・フロスト:

    全部…殺してしまえば、この女王は楽になる……

  17. ティタニア・フロスト:

    …これ以上、下らない話も、見たくない……顔……。も……?

    1. やぁ、元気……じゃないか。
  18. ティタニア・フロスト:

    お前は…何をしているんだ?

  19. 主人公:

    - ティタニアが呆然とするのも無理はない。俺が頭のてっぺんからつま先まで、ぶ厚い防護服…ではなく、甲冑を着てよろけながら登場したからだ。

    1. いつもの格好じゃ絶対に行かせないって言うもんだから…
  20. 主人公:

    - そう言って俺はティタニアの前に座った。

  21. ティタニア・フロスト:

    何をしているのかと聞いてるッ……!

  22. 主人公:

    - ティタニア周辺を包み込んでいる吹雪の勢いが一気に強くなった。

  23. 主人公:

    - だが……俺の体には粉吹雪が風に乗って優しく当たるだけだった。

    1. いつものことだよ。いつも通り俺が隣に勝手にいるだけ。それから、これ―
  24. ティタニア・フロスト:

    そんなもの、必要ない……!

  25. 主人公:

    - ダフネとリーゼから預かった安定剤と、ドリアードが皮を剥いたリンゴ、それとアクアが用意した毛布が入ったカゴが、雪の上にひっくり返った。

  26. ティタニア・フロスト:

    ……こんなもの、必要ない。全部……

    1. ……
  27. 主人公:

    - 散らばった物を元通りカゴの中に入れて、ティタニアの隣に置いた。

    1. ここに置いておくから。
  28. 主人公:

    - 改めて座り直し、ハルピュイアに勧めてもらった小説を取り出してページを開いた。

  29. ティタニア・フロスト:

    ……

  30. 主人公:

    - 黙って俺を睨みつけていたティタニアは、ゆっくりと膝を抱えて座りこみ、顔を埋めた。

  31. 主人公:

    - 依然として吹雪は吹き荒れていたが、俺の周辺の風はページの端がペラペラとめくれる程度だった。

  32. 主人公:

    - びゅうびゅうと風の音だけが聞こえる雪原で、今にも溶けて消えてしまいそうな声が聞こえた。

  33. ティタニア・フロスト:

    …命令でも、すればいいだろう。

  34. ティタニア・フロスト:

    おとなしく言うことを聞いて、「幸せになれ」と。そうすればこの女王は……お前の望み通り幸せになるだろう。

    1. 嫌だ。
  35. ティタニア・フロスト:

    ……

    1. 俺が望むのはそれじゃない。
  36. ティタニア・フロスト:

    …ははっ。じゃあお前の望みは何だ?

    1. 君が本当に幸せになること。
  37. ティタニア・フロスト:

    だったら命令しろと言っている……!この女王に!余に……!さっさと幸せになれと!

  38. ティタニア・フロスト:

    この苦痛を、望んでもない憎悪を!終わらせてほしいのよ……!

    1. うん。それでいい。
  39. ティタニア・フロスト:

    何が……?

    1. そうやって胸の内にしまっていたものを、俺に全部吐き出してくれ。
  40. ティタニア・フロスト:

    ……

  41. 主人公:

    - レアから聞いた、ティタニアの本来の性格……もしそれが本当なら……

  42. 主人公:

    - ティタニアは誰かを傷つけるくらいならと、自分の胸の内にしまい込んでしまうのだろう。

  43. 主人公:

    - それが毒となり、こうして爆発してしまったが……まだ間に合うと信じたい。

  44. 主人公:

    - ティタニアの凍りついてしまった心の中には、きっと姉妹達と一緒に笑い合って、穏やかに過ごしたいという気持ちが存在するはず……

  45. 主人公:

    - レアなら、きっとそうだから。

  46. 主人公:

    - そして俺が知っているレアなら……誰も傷つけたくないと思っているはずだ。

    1. はぁ……、苦しかった。
  47. 主人公:

    - 兜を脱いで下に置いた。冷たいが穏やかな風が俺の髪を撫でる。

    1. ごめん。これ被ってると声がよく聞こえなくてさ。
  48. ティタニア・フロスト:

    …この女王はその気にさえなれば、お前を殺すかもしれないということ……分かっているのか?

    1. うん。
  49. ティタニア・フロスト:

    じゃあどうして……!

    1. その気にならないってことも分かってるから。
  50. ティタニア・フロスト:

    ……

  51. 主人公:

    - 俺達の周囲に吹いている風は、勢いが強まったり、弱まったりしている。

  52. 主人公:

    - そして、その中心にいるティタニアは、唇を嚙みしめたまま無言で俺を見つめている。

  53. ティタニア・フロスト:

    ……お前という奴は。本当に……

    1. うん。
  54. 主人公:

    - 全く止まる気配のなかった猛吹雪が、嘘のように一気に止んだ。

  55. ティタニア・フロスト:

    バカ、そのものだな……

  56. 主人公:

    - その言葉と同時に、ティタニアの体は力無く崩れ落ちる。

  57. 主人公:

    - 気を失ったようだが、抱きとめたティタニアの口元には嘲笑のような……安心したような笑みが浮かんでいた。