Transcription

1. T-4ケシク:

   ブービートラップは……これで全部。さあ、二人のいるところに戻ろう。

2. T-4ケシク:

   ……

3. T-4ケシク:

   （戻って……どうするの？私があの人たちを守る？お笑いぐさだよね。私じゃ何もできない。仲間の足を引っ張ってばかり）

4. T-4ケシク:

   （ああ、いっそ私が再生されてなければ、みんなもっと上手くやれてたのかな……）

5. T-4ケシク:

   ……あれ？何かある。残骸……鉄虫じゃない……コンテナ？

6. T-4ケシク:

   これ、オルカの格納庫で見たコンテナ型ドローンだ。それに後から強引にブースター付け足してる。

7. T-4ケシク:

   ……あっちにも墜ちてる。一個じゃない。この辺りにいくつも飛ばしたってこと？

8. T-4ケシク:

   開封キーは、ええと、オルカの標準コードで……あれ？動画データが添付されてる？

9. C-33アンドバリ:

   アンガー・オブ・ホードの皆さん、録画で失礼します。アンドバリです。

10. C-33アンドバリ:

    皆さんの現在位置を把握したのでまずは物資を送付します。弾薬と医薬品、それから皆さんの専用武装の予備。あとですね……

11. T-9グレムリン:

    グレムリンでーす。うちの砲助をモジュールに分解して同封してあります。歩哨モードで自律稼働するようプログラムしてあるんで、組み立て次第、辺り一帯の安全確保に走り回っちゃうはずです！

12. T-9グレムリン:

    ただですね、コンテナは途中で鉄虫に撃墜されないよう、速度第一でカッ飛ぶよう改装しちゃったんで、中身が無事か保証の限りじゃないんですよね～

13. C-33アンドバリ:

    そのぶん数を飛ばします。一つでも多く回収して、壊れていない部品を選んで組み合わせてください。

14. T-9グレムリン:

    いつも節約がんばってるアンドバリちゃんが大放出で涙目です！ホードの皆さん、戻ったらしばらくエコモードで我慢ですよ～

15. C-33アンドバリ:

    ともかく、戻ってください！全員無事で！そのためなら何でもします！

16. C-33アンドバリ:

    いまお姉ちゃんたちが救援に向かう方法を必死に考えています。必ず行きます！それまでどうか、お送りした資材で乗り切ってください。お願いします！

17. T-4ケシク:

    ……

18. T-4ケシク:

    そっか。タロンフェザーさんが伝えてくれた……「独りじゃない」って……本当だった……

19. T-4ケシク:

    全員で、って……こんなポンコツな私にまで……戻ってこいって言ってくれた……

20. T-4ケシク:

    ……うん、まずはこのコンテナ集めて、一つでも多く砲助さん組み立てて……あとは武器と薬をハイエナさんたちの所に持っていこう。そのぐらいなら、私でもできる！

22. 上官:

    ……ケシク、戦況は。

23. T-4ケシク:

    状況終了。敵は殲滅しました。

24. T-4ケシク:

    こちらの損耗は……58％

25. 上官:

    ……そうか、4割も残ったか。上等だ……まあ、私は6割の側みたいだが……

26. T-4ケシク:

    ……隊長……

27. 上官:

    ケシク曹長、隊長権限をもって貴官を少尉に任命し指揮権を譲渡する。

28. T-4ケシク:

    拝任します。さあ、一緒に帰りましょう。

29. 上官:

    無理言わないでよ……ほらこれ、お腹の半分なくなってるのよ。……あとのみんなを……お願い……

30. T-4ケシク:

    あなたもです。絶対に置いていきません。

31. 上官:

    ……ねえケシク、輪廻って信じる？死んだ人が草花や虫になって、いつかまた人に生まれ変わるっていう。

32. 上官:

    私は輪廻できるかな？次は人間になれるかな……ずっと憧れてたんだ。人間の女の子みたいに、着飾って、甘い物を食べて、友達とはしゃいで……

33. 上官:

    ……それとも、無理かな？私たちは草花や虫と違って、神様が造った命じゃないから……次に生まれ変わっても、ずっと道具のままなのかな……

34. T-4ケシク:

    あなたは、あなたのままで充分です。それだけで私は救われました。ずっと守っていただけました。

35. T-4ケシク:

    だから、どうか……目を開けてください。私を一人にしないでください……指揮なんて無理です……みんな死なせてしまいます……お願いだから！

36. 上官:

    ―

37. T-4ケシク:

    - 私たちは、神ならざる人の被造物。だから神様の管轄外。それとも全知全能の神様は、ただの道具の祈りさえも聞き届けてくれるのだろうか？

38. T-4ケシク:

    - いつか彼女の祈りが通じて、人間になれる日がくるならば―どうか神様、お願いします。私はそこまでの高望みはしません。

39. T-4ケシク:

    - 次に生まれてくるときは、私を狼にしてください。群れの仲間を決して見捨てず、最後まで守り通せるような、牙と爪とを私にください。

40. T-4ケシク:

    - そのときはくまなく大地を駆けて、獲物の血であなたを讃えます。

41. T-4ケシク:

    - お願いだから、もう誰も、私より先に死なせないで……次こそは私を最初にお召しください。これ以上は……耐えられません……

43. 迅速のカーン:

    ……

44. 迅速のカーン:

    - ああ、またか。

45. 迅速のカーン:

    - 他者との対話や部下への配慮、長期的な戦略予想といった諸々を廃し、ただ目の前の敵を倒すという単純作業に没頭する場合、私が必要とする集中力は、思考の総量の半分で事足りる。

46. 迅速のカーン:

    - だから極限状況下での継続的な単独任務では、私は二分割した意識を交互に切り替えて、戦闘と休息を平行して行える。

47. 迅速のカーン:

    - 平たく言えば……眠りながら戦える。

48. 迅速のカーン:

    - 利点は、精神的疲労を大幅に軽減できること。欠点は、夢を見ることだ。

49. 迅速のカーン:

    - 総じて記憶の再見というのは、快いものではない。とりわけそういう不自然なストレス状況で眠れば、自ずと夢は悪夢に偏る。

50. 迅速のカーン:

    - そうして半身が魘される悪夢を、覚醒している半身が傍観する。肌をかすめる銃弾と硝煙の熱を浴びながら。

51. 迅速のカーン:

    - 異常な行いだという自覚はある。幸いにして部下たちには知られていない。「これ」をやるのは誰も見ていない時に限定している。

52. 迅速のカーン:

    - 皆から今以上に怖がられるのは本意ではない。できれば戦いをモニタしている司令官にも隠しておきたいが……いずれ気付かれたときには、彼に「壊れている」と思われないよう祈るしかない。

53. 迅速のカーン:

    それにしても、嫌な夢だ。

54. 迅速のカーン:

    - 空になった弾倉を再装填しながら、同時進行する白昼夢に独りごちる。これだけ古い記憶を掘り返されるのは―…やはり、彼女を見てしまったせいか。

55. 迅速のカーン:

    - 換装される以前の自分が遺伝子情報として遺失していたのは、正直なところ安堵があった。

56. 迅速のカーン:

    - ドクターに論破されてしまったが、ケシクの再生に反対したのは私のエゴだ。マリーなども再生された姉妹に対面したとき、こんな違和感を懐いていたんだろうか。

57. 迅速のカーン:

    - あの頃の私に、今の私は会わせる顔がない。

58. 迅速のカーン:

    ……すまない。みな死なせてしまった。あれからも、何度も。

59. 迅速のカーン:

    - 記憶の中で泣き崩れる過去に、そう謝罪する。

60. 迅速のカーン:

    今もこの手で切り裂き、撃ち抜いている敵の数を、せめてもの贖いとしながら……