Transcription

1. 迅速のカーン:

   ……以上が敵の布陣と傷兵の位置だ。

2. 不屈のマリー:

   でかしたぞ。これで全ての情報が出揃った。いよいよ我々も反撃に移れる。

3. C-77紅蓮:

   本隊が前進し戦端が開き次第、我々マングースチームが側面から突入し負傷者の救護に当たります。

4. 不屈のマリー:

   ご苦労だったカーン。今はゆっくり休息してくれ。

5. 迅速のカーン:

   いいや。弾薬の補給を。それと栄養剤と刺激剤も頼む。

6. T-20Sノーム:

   継戦するつもりですか？無茶です！もうバイタルは限界ですよ！

7. 迅速のカーン:

   敵はそこにいる。部下たちが戦っている。私のやることは一つだ。

8. 不屈のマリー:

   ……兵長。言われた通り物資を手配しろ。大至急だ。

9. T-20Sノーム:

   ですが……

10. T-20Sノーム:

    はい、了解しました。直ちに。

11. C-77紅蓮:

    我々の救出計画は無用ですか？

12. 迅速のカーン:

    いいや。救急資材を持って行く余裕がない。私が道を開くから後に続いてくれ。負傷者たちまでの最短ルートを確保する。

13. C-77紅蓮:

    了解です。迅速のカーンの戦術を間近で部下たちに学ばせていただきます。

14. T-20Sノーム:

    ……装備はこちらに。あの、せめて疲労箇所のテーピングだけでも……

15. 迅速のカーン:

    無用だ。急を要する。では。

16. T-20Sノーム:

    あの、宜しかったのでしょうか？

17. 不屈のマリー:

    我ら異なるバイオロイド大隊がオルカで連合するに当たり、暗黙の不文律がある。他の部隊を自らの常識で測らないこと。そしてカーンはホードの長だ。余計な口出しは無用だ。

18. T-20Sノーム:

    ……せめて空挺ユニットだけでも随伴させては？普段は他の隊員たちの後方支援を受けて突貫なさっている筈です。

19. 不屈のマリー:

    そんな付け焼き刃の連携でホードの群狼戦術は真似できん。足を引っ張るだけだ。安心しろ兵長。彼女は必ずやり遂げる。

20. T-20Sノーム:

    ……

21. 不屈のマリー:

    一つ教えておこう。

23. 不屈のマリー:

    以前、ドクターがカーンの強さの秘訣を解析しようと、彼女の戦術や判断、行動傾向をすべてサンプリングして模擬戦AIを組んだことがある。

24. 不屈のマリー:

    そのAIを、連合戦争や滅亡戦争の戦況を平均化したシミュレーションに投入し、どれだけ戦闘を続行できるかテストした。結果は―

25. 不屈のマリー:

    24時間の生存を達成したケースが出現するまで、およそ70万件に近い失敗が報告されたそうだ。

26. 不屈のマリー:

    分かるか？カーンのあの戦い方では、理論的に突き詰めると「ほぼ確実に死ぬ」ということだ。

27. T-20Sノーム:

    で、でも実際は……

28. 不屈のマリー:

    そうだ。1日で70万回死ぬはずの戦場を、カーンは100年に渡って戦い抜いた。

29. 不屈のマリー:

    概算にして生存確率は1/25,000,000,000未満。

30. 不屈のマリー:

    想像がつくか？彼女はもはや常識の物差しでは測れない。

31. 不屈のマリー:

    あり得ざる奇跡の体現者。それが『迅速のカーン』という戦士なんだ。