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Transcription
- ???:
レイチェル…?
- ???:
め、目を開けて……
- ???:
君は…本当に……
- ???:
いい大人が…こんなイタズラやめてくれよ……
- ???:
ああ……ダメ、ダメだろ!まだダメだって……!!
- :
- いつも甘く感じていた彼女の香りが、この時はやけに苦く感じた。
いや、はっきりと“嫌”だと感じた。 - :
- 彼女の肌は氷のように冷たくなっていき……
これまで幾度となく自分を導いてくれた澄んだ瞳も光を失った。 - :
- そうやってその日、レイチェルは死んだ。
- :
“愛する者は軽蔑するから創造しようとする!
- :
自分が愛しているものを軽蔑しない者に、愛がわかるはずがない!
- :
私の兄弟よ、あなたの愛、あなたの創造と共に孤独になりなさい。
- :
やがて正しさが足を引きずりながら、あなたの後を追ってくるだろう。
- :
私の兄弟よ、あなたの涙と共に孤独になりなさい。
- :
私は自分自身を超えて創造しようとして破滅する者を愛する。”
- :
フリードリヒ・ニーチェ。『ツァラトゥストラはかく語りき』より―
- :
[あるところに普通の男と普通の女がいた。
この二人は普通に恋に落ち、普通の子供を産んだ] - :
[そうしてどこにでもある普通の家庭になることを願いながら、
普通の幸せを夢見た] - :
[しかし、子供が生まれると男は突然消えた。
女はあらゆる苦難と屈辱に耐え、男を探した] - :
[そして、女が男を見つけた時、男はすでに別の女の男になっていた]
- :
[女の目的はあくまで以前のような普通の日常を取り戻すことだけだった]
- :
「あなた、あなたが必要なの。幸せだったあの時に戻りましょう!」
- :
[しかし、男から返ってきた答えは「二度と来ないでくれ」という
見下したような笑みを添えた言葉だけだった] - :
[男の浮気なのか、それとも女がただ捨てられただけなのか……]
- :
[とにかく普通だった女の人生は一瞬にして崩れ去った]
- 女:
「死ね…!」
- 女:
「もう…死ね!!!」
- 女:
「お前さえ……お前さえいなかったら…」
- :
[我が子の首を力いっぱいに絞めていた女はすぐ疲れ、
絞めるのを止めてすすり泣く] - :
[少年はそのタイミングで一気に空気を吸い込む]
- :
[少年はこの状況にすでに慣れていた]
- 女:
「……どこで間違えたの…」
- 女:
「…どうしてなの…?どうして……」
- :
[聡明だった少年はこの最悪としか言いようのない悲しみの原因が、
他でもない自分自身だということをすぐに理解した] - :
[そして、この悲しみにどう向き合えばいいのか分からなかった少年は、
母の“愛情表現”をただありのままに受け入れることにした] - :
[それは愛というよりも親という生物的な繋がりを維持するために
自然と選択したといった方が近かった] - :
[この何の抵抗もしない子を持つ女は……]
- :
[父親がいなくてもまっすぐに育つ聡明な子供をもうけたとして、
似たような境遇の女たちに羨ましがられた] - :
[だが、日々成長する子供はその隠すことのできない非凡さで、
どこへ行っても人々の注目を集めるようになっていた] - :
[そんな子の親として生きることを定められた女は]
- :
[子供の成長と共に忍び寄ってくる“恐怖”にただ怯えていることしか出来なかった]
- :
[その少年は呪いであり、女の人生の悲惨さがただ実体化したものにしか
見えなかったのだ] - :
[その日もいつもの光景といつもの言葉、そしていつもの体罰が続けられていた]
- 女:
「私に必要なのはお前じゃない…あの人、あの人なの……」
- :
[女は泣き続けた。少年は涙どころか、一滴の汗も流さない。]
- :
[いつしかこの醜い光景は女にとっての日常となっていた]
- 女:
「辛い。面白くもない……いつまでこんなことが続くのよ!」
- :
[少年は思った]
- :
(ここで涙を見せたら、もしかしたら……お母さんは優しさに
目覚めてくれるかもしれない) - :
[少年は長い間観察していた母を真似し、声をあげて泣く演技を女に見せた]
- :
[するとその演技に女は戸惑いを見せる。
そして、少年はそのいつもと違った母の反応に興味を持ち、 いつも自分にしてくれていた“愛情の現れ”をも真似することにした] - :
[小さな手で、いつもされるように、一気に母の首を絞めた]
- :
[初めて触る母の首筋は温かく、
想像以上に柔らかくて切らずに放置されていた爪が難なく食い込んだ] - :
[首から聞こえてくる音はハッキリと鼓膜に伝わり、
ぞくぞくする感覚が背中を走った] - 女:
「このバケモノッ!!!」
- :
[その声と同時に、少年の頬に女の平手が叩きつけられた]
- :
[遅れて熱くなる頬、そして口の中に生臭い鉄の味が広がった]
- :
[怯えた女は気の毒なほど体を震わせ、涙の跡が一つとない我が子から離れようと
慌てて後ずさりした] - 女:
「バケモノ…悪魔!お前なんか生まれたらいけなかったのよ!!」
- 少年:
「…お母さんが産んだのに…?」
- :
[思わず口から出た自分の言葉に少し慌てた少年は、
母がその言葉にどんな反応を示すのか興味を持って観察した] - :
[母はいつの間にか壁までさがって何かをぶつぶつと呟いていた。
乱れた服も冷や汗でびっしょりと濡れている] - :
[少年は母の口の動きを見て、父が好きだったという聖書の一節を
呟いているのだと推測した] - 少年:
「お父さんが好きだった聖書も…サタンがいなければ作られなかった…」
- 女:
「うるさいうるさいうるさい!!子供が親に説教する気!?
頭が良いんならせいぜい普通の子供のフリくらいしろよ!!!」 - :
[そうやって暴力が始まった。少年はこの時悟る。
今受けているものに比べれば、これまでの体罰はただの“おあそび”だったのだと] - :
[少年はまぶたを閉じ、反射的に飛んでくる拳を防ぎながら、
「お母さん、お母さん」と祈るように呼んだ] - 女:
「…私はお前のお母さんじゃない!お前みたいなのを産むはずがない!!」
- :
[女の暴力は止まることなく。荒いうめき声とともに親としてあるまじき言葉を
次々と少年に浴びせかけていた] - :
[気付けば痩せ細った親と子は少年の血にまみれていた]
- 女:
「お願いよ…お願いだから…どうか…私の前からいなくなって」
- :
[少年の額からは涙に代わって赤い血が流れていた]
- :
[「お母さん」と祈るように呼んだ対価は家族というエデンからの追放だった]
- :
[少年は家を飛び出した。もはや原因などはどうでもよかった。
家にいる理由は消えたのだから] - :
[歩いた。歩き続けた。この世界から逃避するように]
- :
[父は最初から存在せず、母に殺されかけた悲しき子供。
自ら孤児になることを決めた少年はあてもなく歩き、 誰かが捨てた食べ物で飢えをしのぎ、破れた衣服を拾って寒さに耐えた] - :
[慣れてしまえば、平凡から離れた生活も存外難しくなかった。
豊かさに溺れた者たちが着てもいない服やまだ食べられる物を 常にゴミとして捨てていたから] - :
[それでもまだ幼く小さな体では住処を奪われることもよくあった。
その度に食べたり眠ったり出来なくなる。そんなことを何度も繰り返した] - :
[どれくらい歩いただろうか?少年は名も知らぬ場所にやって来た]
- :
[スパイスの香りをまとう商人たち、湿った地面と野原に咲いた花……
全て初めて見るものなのに、少年は不思議に思う気力すら残っていなかった] - :
[ふと、一つの家が目についた。風になびく白いカーテンの向こうからは誰かの
笑い声が聞こえる。少年はそれに引き寄せられるように近づく] - :
[そして、家の前までやってきた少年は限界を迎え、
そこで眠るように気を失った]