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- ???:
あ!目が覚めた?よかった!
お母さ~ん!気が付いたみたいだよ~! - 少年:
(ここはどこ…?)
- 女性:
気が付いたのね、ボク?よかった。心配したのよ。
- 女性:
(この人は……?)
- 女性:
あなたはうちの前で倒れていたのよ?
- 女性:
足もボロボロだったし、遠くから歩いてきたの?
- 女性:
ご両親は?おうちはわかる?
……もしかして外国から来たのかしら……? - :
- 何も答えない少年に女性はひどく当惑した様子で
狭い部屋の中をグルグルと歩き回った。 - 女性:
それとも話したくないのかしら……?
- 女性:
うん。そっか……じゃあ話したくなるまでこの家に泊まってていいからね。
- 女性:
ゆっくり休んでいなさい。今温かいミルクを持ってきてあげるから。
- :
- そう言って女性が部屋を出ていくと、すぐにこの家の住人と思しき男の子が
好奇心で目をキラキラさせながら話しかけてきた。 - ???:
なぁなぁ、俺のベッド、すごくいいだろ~!
- ジョン:
あぁ、まだ名前言ってなかったね!俺の名前はジョン!
- ジョン:
君の名前は?
- ジョン:
…あ、もしかしてそれも言いたくない?……だったら言わなくても大丈夫!
あ、でも、それじゃ何て呼べばいいんだろ?うーん…… - ジョン:
とにかく会えて嬉しい!名前も知らない子と友達になるのは初めてだ!あははは!
- 少年:
……お前…うるさい……
- ジョン:
うわぁ!喋った!喋れるじゃん!
- 少年:
おい…
- ジョン:
ごめんごめん!俺がベッド貸してあげてるのに、偉そうだなぁー
- ジョン:
まぁ、いいや!今日はゆっくり休んで!明日遊ぼ!
- :
- 心も体も疲れ切っていた少年は、警戒を解くと布団の中に潜り込んだ。
- :
- その後、どれくらい時間が経っただろうか?
少年は久々のすっきりした目覚めに思わず伸びをし、 ベッドから降りて部屋のドアへ向かった。 - :
- 少年は黙って家を出るつもりだった。
- :
- そっとドアを開ける……
- ???:
お兄ちゃん、見つけたぁ!
- :
- 突然、少年は誰かに後ろから抱きつかれた。
腰を見ると細くて真っ白な腕が力いっぱいに巻きついている。 - 少年:
(お兄ちゃん…?)
- レイチェル:
あれ?お兄ちゃんじゃない。
- レイチェル:
…ああ!
- レイチェル:
あなた、お母さんが言ってた子ね!おうちの前で倒れてた野良猫さん!
- 女性:
みんな~!いらっしゃーい。ご飯ができたわよ。
- 女性:
あら、起きたの?お腹空いてるでしょう?あなたの分も用意したから
一緒に食べましょ。ほら、遠慮しないで。 - :
- 女性は優しい笑顔で少年を迎えた。
- レイチェル:
お母さんお母さん!私、パンケーキがいい!
- ジョン:
俺も俺も!
- :
- 花柄のテーブルクロスの上には芳ばしい香りのパンと果物が載っていた。
この家の住人たちは美味しそうにそれを食べながら話に花を咲かせる。 - :
- 女性は子供たちの急なリクエストにも綺麗な焼き色のパンケーキを焼いてあげ、
さらに二人の頬と額にキスをする。 愛されてこなかった少年にとってその光景は衝撃的だった。 - 女性:
ボク?なんで食べないの、もしかして嫌いな食べ物があった……?
- :
- 食べ物に手をつけない少年を心配する女性は慎重に尋ねる。
- 少年:
…いえ、
- 少年:
こんなに温かい食事は初めてで…
- :
- 女性は少年の頭を撫でた。その女性の服からは心地よいせっけんの香りがした。
ベッドの香りと同じ香りだった。 - 女性:
あのね、ボク?昨日、みんなで私たちに出来ることはないかって考えてみたの。
- 女性:
あなたがもし帰る場所がなくて……辛い思いをしてるのなら……
- 女性:
帰る場所ができるまでここに住まない?
- 女性:
もちろん、あなたがここにいたかったらでいいの、嫌じゃなかったら…
- 女性:
知らないおばさんにこんなこと言われても怖いかもしれないけど……
- 女性:
私も子供を持つ母親だから……
- 女性:
…放っておくことはできないの……
- :
- 少年は撫でられながらそっと目を閉じた。
- :
- 今まで感じたことのない空気と誰かの温もりを感じる部屋、
食器がぶつかり合う音…… - :
- そのどれもが以前の生活にはなかったものだが、
少年は不思議と安らぎを感じた。 - :
- そして、そっと柔らかいものに顔が包み込まれ、少年は閉じていた目を開けた。
目の前を覆われて暗かったが怖くなかった。 むしろ、彼女の心臓の音が鼓膜に伝わり、心地よくすら感じた。 - レイチェル:
お母さ~ん!私もギュってして~!
- ジョン:
俺も俺も!
- レイチェル:
お兄ちゃん、それしか言えないの?
- 女性:
ほらほら、ケンカしないの。順番で抱っこしてあげるから。
- :
- 彼女は少年の小さな背中を撫でながら、二人の子供に笑顔を見せた。
- :
- 小さな背中は震え、熱い涙が堰を切ったように零れる。
少年は女性のカーディガンに顔を擦りつけて涙を拭くが、 なかなか止めることができなかった。 - :
- その日、少年は初めて家族の安らぎというものを知ったのだった。
- :
- 時は流れ、少年は「ネロ」という愛称で呼ばれるようになり、
ジョンたち家族の一員となっていた。 - :
- 全てを失い、命すらも危かった少年は家族の温もりに触れ、
すくすくと育っていった。 - :
- 少年は楽しい食事を終えると、いつものように兄妹と一緒に村の外れまで
遊びに出かけた。 ポケットにはたくさんのお菓子を詰め込んで。 - :
- 所有者がいなくなって放置された小さな山には、
病虫害に強い遺伝子改良木がぎっしりと植えられていて、 夏になると青々と茂り、珍しい渡り鳥と昆虫の鳴き声が聞こえてくる。 - :
- 三人はこの山で一番大きなカブトムシを捕まえようと、
汗を垂らしながら木々を探し回っていた。 - ジョン:
ここ!ここだ!ここ、ここ!オーイ!ちょっと手伝って!
- :
- ジョンはぴょんぴょん飛んで少年とレイチェルを呼んだ。
- :
- 少年は何の躊躇もなく肩をジョンに差し出し、
ジョンはそれに遠慮なく足を乗せた。 - :
- そばに寄って来たレイチェルが、フラつく兄の背中を見上げながら
楽しそうに声をあげて笑った。 - レイチェル:
わぁ!!高ーい! 私も乗せて!
- ジョン:
しー!静かにしろ、レイチェル!いま集中してるから!
- レイチェル:
もう~…ネロお兄ちゃんのばか!いっつもジョンお兄ちゃんだけ肩車する~!
- :
- レイチェルはそう言って地団太を踏む。
- ジョン:
あと5cm……!
- :
- ジョンはむくれる妹を無視して、樹液を吸っている虫に
手作りの虫取り網を近づける。 - :
- そして……
- ジョン:
やった!捕まえた!!見て!すっげー!
- レイチェル:
わぁ~!見せて見せて~!
- ジョン:
ほら、小さいアゴがあるから挟まれないように気を付けて。
クワガタかな? - 少年:
ここに薄いスジがあるからヒラタクワガタのメスだね。
- レイチェル:
へぇ~そうなんだ!
- レイチェル:
なんでそんなこと知ってるの?もしかしてファーブル昆虫博士の生まれ変わり?
- 少年:
たまたま本で読んだだけだよ。
- レイチェル:
そっか!それでもすごいと思う!
- ジョン:
なぁなぁ!俺、いいこと思いついた!
- ジョン:
みんなで捕まえたクワガタを戦わせて勝負しようよ!
- ジョン:
誰が一番強いクワガタを捕まえたかで勝負するんだ!
- レイチェル:
え?かわいそうだよ!クワガタさんも嫌がるかもしれないじゃない!
- ジョン:
そんなわけないじゃん。
じゃあ、なんで強そうなアゴを持って生まれてきたんだよ? - レイチェル:
それは……
- レイチェル:
戦いに使うものじゃないかもしれないじゃん!!
それに…… - レイチェル:
私たちみたいに仲が良い兄妹のクワガタだったらどうするの?
- :
- レイチェルは声を張り上げて自分より身長が高い兄を問い詰めはじめた。
- :
- そんなレイチェルを見てジョンは何か思い付いたように悪い笑みを浮かべた。
- :
- 肩をすくめて二人の話に耳を傾けていた少年は、ジョンの悪い笑顔を見て
小言の代わりにため息を吐く。 - ジョン:
仲が良い兄妹?お前と俺が?冗談だろ?
- レイチェル:
……
- レイチェル:
はあああ!?
- :
- レイチェルの顔は一瞬で真っ赤になってしまった。
- :
- ジョンはさらに挑発するように隣にいた少年の腕を引っ張って
自分に引き寄せる。 - ジョン:
どう見てもこっちの方が仲良し兄弟っぽいよなー?
- :
- それを聞いたレイチェルは目にいっぱいの涙を溜めていた。
- レイチェル:
やだ!ネロお兄ちゃんは私のなの!!
- :
- レイチェルの今にも号泣しそうな様子に、ジョンも不味いと感じて
少年をチラリと見た。 - ジョン:
な、何だよ…野良猫、いつのまにレイチェルとそんなに仲良くなったんだよ……
俺だけ仲間外れか? - :
- ジョンは優しい声で言いつつ、少年の肩を妹の方へ押した。
妹を慰めろという意味だろう…… - 少年:
(また巻き込まれた……)
- :
- そう思いつつ少年がレイチェルの小さな肩を撫でると、
彼女はすぐに可愛らしい笑顔を見せて機嫌を直した。 - 少年:
というかお前、いつまで僕を野良猫って言うんだよ。
- ジョン:
だって野良猫は野良猫じゃん?他に何て呼んだらいい?
- ジョン:
野良猫ちゃーん?他人の家に勝手に入ってきたらダメなんだぞー、
もしかしてお母さんがいないのかー? - :
- ジョンは自分の母親の真似をしながら、
そこに猫がいるかのように何もいない地面に向かって話しかけた。 - 少年:
こいつ!!!
- :
- 悪気がなかったとはいえ、その言葉は口にしてはいけなかった。
少年はすぐにジョンに飛びかかり、二人は地面を転がった。 - レイチェル:
お兄ちゃんたち、やめて!家族は喧嘩しちゃダメなんだよ!
- レイチェル:
……あ!
- レイチェル:
えぇぇぇん……どうしよう……私のクワガタさん逃げちゃった……
- :
- レイチェルが持っていたクワガタはいつの間にか手から逃れ、
茂みの向こうに飛んでいってしまった。 - :
- そして、それを追いかけてレイチェルはあっという間に
茂みの中に入っていった。 - レイチェル:
お兄ちゃんが捕まえてくれたクワガタなのに……
- ジョン:
…レイチェル?レイチェル!戻ってきて!危ないよ!
俺がまた捕まえてあげるから! - :
- ジョンは急いで起き上がって呼び止めたが、すでにレイチェルの姿は
見えなくなっていた。 - :
- ジョンはすぐに少年に近寄って、立ち上がれるよう手を差し伸べた。
- ジョン:
さっきのは謝る……。レイチェル探すの手伝え。
- 少年:
……
- 少年:
お前に命令されなくてもそうするつもりだった。
- ジョン:
はぁ?命令?……お前本当に性格悪いな。
- :
- ジョンは面倒臭そうに頭をかきながら、妹が消えた茂みの中へと入っていった。
- :
- ジョンのレイチェルを呼ぶ声が遠ざかり、
しばらくして少年も茂みに入っていく。 - :
- 二人はそれぞれ別々の方向に散らばる。
これまでも似たようなことがあり、もう慣れっこになっていたからだ。 これが一番効率的だった。 - :
- 一時間くらい探し回っただろうか?
少年はやっと木の根元に座っているレイチェルを見つけることができた。 - レイチェル:
あれ?ネロお兄ちゃん?もしかしてお兄ちゃんも迷っちゃったの?
- :
- レイチェルは嬉しそうに目を細めた。
- :
- その表情に少し言葉が詰まった少年は、
レイチェルが握っていたクワガタを指差した。 - レイチェル:
あ、これ?えへへへ、私が捕まえたんだ!すごいでしょ~?
- :
- レイチェルは立ち上がって、足を引きずりながら傍にあった木に近づく。
よく見ると彼女の膝から下は擦り傷で大変なことになっていた。 - レイチェル:
この子はここがおうちだから……ここにいた方が幸せだよね?
- レイチェル:
どう考えても、私たちが遊びで戦わせるなんてダメだよ!
- レイチェル:
お母さんとお父さんが心配してるよ。ちゃんとおうちに帰ってね、クワガタさん。
- レイチェル:
痛っ!
- :
- レイチェルがクワガタを木に戻した瞬間、
クワガタは彼女の指を思い切り挟んだ。 - :
- その悲鳴を聞いた少年は素早くレイチェルの指からクワガタを取り、
地面に叩きつけた。 - :
- そして、少年はおさまらぬ怒りに任せてクワガタを何度も踏みつける。
- レイチェル:
やめて!やめて……!ただ驚いただけなの!全然痛くないから!
この子も怖かっただけだよ!やめて!お兄ちゃん!! - 少年:
…血が出てるだろ。
- レイチェル:
大丈夫だよ……
- :
- レイチェルは血をスカートで拭こうとすると、
少年は少し顔を赤くして舌打ちした。 - 少年:
汚れた服で拭いちゃダメって前も言っただろう?
- レイチェル:
……うん……
- :
- 少年はレイチェルの流れる血を舐めとり、雑菌が混ざった可能性がある血を
吸い出すため傷口に唇をつけた。 - :
- レイチェルはその舌と唇の感覚にくすくすと笑ってしまった。
- レイチェル:
お兄ちゃん、本当の猫さんみたい!
- 少年:
うるさい。早く帰るよ。
- :
- レイチェルは少し不満げな目で少年を見つめた。
- レイチェル:
お兄ちゃん、そんなんじゃ大人になってもモテないよ。
- 少年:
…モテなくていいよ。
- レイチェル:
お兄ちゃんと結婚する未来の奥さんのためにも、ちょっと笑う練習しよ?
ほら、スマイル!えい! - 少年:
…ほあ、いへにかへふよ。
- :
- レイチェルが少年の頬を摘まんで無理矢理笑顔を作る。
その状況におかしくなって二人は笑い始めてしまった。 - レイチェル:
ね?スマイル~ってしたら笑っちゃうでしょ?
- 少年:
もうふざけるのはやめて、日が暮れる前に帰ろう。
遅くなったらおばさんが心配するよ。 - レイチェル:
ジョンお兄ちゃんは?
- 少年:
バカじゃないんだから、自分で帰ってこれるだろ。
- :
- レイチェルが少年の背中に乗って、首に腕を回す。
すると柔らかな茶色の髪が少年の頬をくすぐった。 - レイチェル:
お兄ちゃん、ジョンお兄ちゃんのことそんなに嫌い?
- 少年:
どうしてそう思うの?
- レイチェル:
毎日毎日喧嘩するじゃん!
- 少年:
みんな喧嘩しながら成長していくんだよ…聞いたことあるだろ?
- レイチェル:
じゃあ、いっぱい喧嘩してるお兄ちゃんたちは大人になったら
エッフェル塔くらい大きくなるの? - 少年:
エッフェル塔?エベレストくらいになるよ。
- :
- そんな話をしていると、さっきまで元気に揺れていた足も
いつのまにか止まっていて、あくび交じりの息遣いが聞こえるようになってきた。 - レイチェル:
あのね、喧嘩ばっかりしてるけど……ネロお兄ちゃんが来てから、
家族みんなが昔に戻ったみたいで……嬉しいの。 - レイチェル:
ホントはね……ジョンお兄ちゃん……すごく優しいんだよ。
勉強もすごくできるし…… - レイチェル:
私のせいで……うちの家族みんな……すごく大変だったから……
- レイチェル:
昔は…
- :
- そこまで言ってレイチェルは眠ってしまった。
- :
- 少年はレイチェルの言葉の続きが気になって、自分で想像してみることにした。
- :
- しかし、彼が知っている家族はあの体罰を行っていた母だけだ。
大変だったと聞けば、レイチェルが自分と同じような目に遭っている想像しか 出来なかった。 - :
- 急にやってきた不安と恐怖に少年の歩きは自然と速くなった。
背中におんぶされたレイチェルは静かに眠っている。 - :
- そのまましばらく歩いていると、次第に“我が家”が見えてきた。
- :
- 家の前ではジョンが落ち着かない様子で行ったり来たりしている。
- :
- そして、ジョンは土で汚れた少年とレイチェルを見つけると、
さっきまで泣いていたのか声を震わせながら慌てて走ってきた。 - ジョン:
もおぉ!どこにいたんだよ!何かあったのか?怪我はない!?
- ジョン:
ところで、レイチェルは…?大丈夫……?
- :
- 少年はぐっすり眠っているレイチェルをジョンに預ける。
しかし、ジョンの顔はあっという間に真っ青になってしまう。 - ジョン:
お母さん!!お母さん!!!!!
- :
- 少年は大声で叫ぶジョンに驚いて、思わず彼の口を塞いだ。
- 少年:
レイチェルが眠ってるのがわからないの……!?
- ジョン:
うるさい!!それがダメなんだよ!!
- :
- それからレイチェルはベッドに寝かされ、
ジョンたち家族は食事も寝ることも忘れて彼女を見守り続けた。 - :
- 安らかな顔で眠っているレイチェルに皆がここまで過保護になる理由が
少年にはわからなかった。 - :
- 本でも読んだことがない状況ではあったが、
しばらくして聡明な少年はある事実に気が付いた。 - :
- レイチェルが目を覚まさないということを……
- :
- レイチェルが目覚めないまま三日が経ち、
彼女の母は限界が来たのか、とうとう泣き出してしまった。 - :
- ジョンはそんな母のそばで笑顔を見せ、
虚しい慰めの言葉を繰り返して一日を過ごすことになった。 - :
- 夜明け前、少年はまだ明かりが漏れるジョンの部屋のドアを叩いた。
- ジョン:
あれ?こんな時間にどうしたんだよ……。眠れないのか?
- 少年:
……
- ジョン:
お、お前……まさか……
- ジョン:
おねしょでもした?
- 少年:
……
- ジョン:
何か反応しろよ~……
- :
- ジョンは疲れと焦りを隠すために、いつもの調子で
くだらないことを言ってきた。 - 少年:
他人には教えるつもりはないってことか。
- ジョン:
勘違いするなよ。そういうんじゃない。
- 少年:
レイチェルに何か秘密があったみたいだけど……
- 少年:
少なくともまだあの子は生きてる。だから説明してくれよ。
別に全部説明してほしいって言ってるわけじゃない。 - 少年:
僕に簡単にでもいいから教えてくれてたら、
そもそもあんな所に遊びに行ったりしなかった。 - 少年:
それなのにお前は全部知ってるくせに、
あの子を毎回あんなところに連れ出して…… - 少年:
そんなの兄失格だろ…!
- :
- これまで我慢していた怒りをぶつける少年。
ジョンはそれを黙って聞いていたが、その目元には絶望と疲れが見えていた。 - ジョン:
お前さ……
- :
- ジョンの口調はいつものふざけた様子ではなかった。
- ジョン:
レイチェルは……眠るたびに死ぬほど苦しむ……って言ったら信じるか?
- 少年:
お前は本当に…!こんな時までふざけて……
- ジョン:
…いつからそうなったのか分からない。
レイチェルは普通に生活していても急に眠るようになって…… その間ずっと悪夢を見るから、心も体も弱っていく…… - ジョン:
嘘だと思うだろ?俺も信じられないよ。
- ジョン:
そのせいでお母さんとお父さんはしばらく変な宗教に入ったりしたし……
- ジョン:
そうなるのもわかるけどね……いきなり眠って、起きたら起きたで夢の中で
足がたくさん付いた蛇を見たって話を一日中するんだからさ…… - ジョン:
だから、「妹はサタンに審判の日を導くメシアとして指名されたから、
その運命を変える為に初潮を迎える前に教団に入れないといけない」 とか言い出して……なんか、あれだろ?オエーって感じ。 - :
- ジョンが吐くジェスチャーをする。
少し重くなった空気を変えようとしたらしい。 - ジョン:
でも、そんな時に最近本格的に研究が進み始めた技術の話を聞いてさ……
えっとなんだっけ……?“柔軟な石”… - ジョン:
オリジナル…なんだっけ……
- オリジンダスト
- ジョン:
…そうそう、“オリジンダスト”!俺たち家族が韓国に来たのも
それが目的だったんだ。 - ジョン:
エネルギー問題が大変だって言われてるこのタイミングで開発された新物質。
- ジョン:
核融合以上のエネルギーが貯めこまれてて、死んだ細胞まで
動き出すって言われてる。 - ジョン:
オリジンダストが人間に使えるかは分からないけど……
一般に普及したら…… - ジョン:
“生命”の定義も変わっちゃうらしいんだってさ!
- ジョン:
寿命が200歳、300歳になるのが当たり前の世の中になるって!
- ジョン:
レイチェルにもきっといい効果があるはずだよ……
- 少年:
……
- 少年:
バカだな。一般に普及?
- 少年:
そんなにとてつもない技術が風邪薬みたいにみんなが使えるようになると思う?
- 少年:
どうせ、金持ちと権力者の間でしか広まらないよ。
それか、大統領とかお偉いさんの身を守るためだったりとかせいぜいその程度… - 少年:
人っていうのは、みんな打算的に動くように設計されているんだよ。
利益がないなら普及なんてしない。 - 少年:
今はそんな非現実的な方法より、ある程度実現できそうな方法を
考えてみた方…が…… - :
- 少年がジョンの方を見ると、さっきまで暗く落ち込んでいたはずの彼の目が
何故かキラキラと輝いていた。 - 少年:
…でも、まぁ…不可能だと決めつけるのも良くないかもしれない。
- 少年:
だいたい、そんな信じられない技術力があって、
世界を一気にひっくり返すような新発見なのに どうして世の中に公表したんだろう? - 少年:
……そもそも本当に見つかったの?実はSF小説の内容が変に広まっただけとか?
- ジョン:
一人でなに言ってるんだよ。
世の中はもっと簡単でお前みたいに意地悪じゃないよ。 - 少年:
こんな世界を敵に回すようなこと……普通はしない。
ノーベル賞を一つもらうため?いや、そんなものと釣り合うリスクじゃない。 - ジョン:
…ノーベル賞はもらったらいいじゃん?世界を救うヒーローだろ!!
- 少年:
はぁ……。話が通じると思った僕がバカだったよ……
- 少年:
莫大な金を手にできる可能性の塊をそのまま公開する……?
- 少年:
大人がみんなお前みたいに純粋じゃない。
オリジンダストを発明するまでにも莫大な資本をかけてるはず。 - ジョン:
科学はお前みたいにひねくれてないってことでしょ。
- ジョン:
まぁ、お前の言う通り、確かにこんな大発見が公開されるのは
変かもしれないけど…… - ジョン:
もしかしたら、研究が全然進まなくなったのかも?
- ジョン:
それでも研究を進めるためにお金を集めないといけないから、
今までわかったオリジンダストの良い部分をワザと流した…とか? - 少年:
…お前も十分ひねくれてるじゃないか。
- ジョン:
…よし、決めた。
- ジョン:
これから一生懸命勉強をして、レイチェルの病気を治すために
オリジンダストを研究する会社を作る! - :
- 少年は野望に満ちたジョンの決心に心惹かれたのだった。
- :
- ジョンは無愛想な少年の肩に腕を回してグッと引き寄せた。
- ジョン:
俺のこと、手伝ってくれるだろ?ネロ?
……いや、ジソク。 - ジソク:
…また勝手に言ってる……
- アダム:
俺たちはこれからもずっと兄弟だ。
どこまでもひねくれてて、ムカつくほど賢いお前がいてくれれば、 絶対にうまくいく。 - ジソク:
アダム、ふざけてるのか?
- アダム:
なんだよ野良猫~。 恥ずかしいのか?お兄ちゃんには素直になれよ。
- ジソク:
……
- ジソク:
僕は……僕の幸せを僕の手で守りたかった。
僕の家族、僕の友人、そして僕の……