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Transcription
- :
- 三安産業設立後、「プロジェクトエヴァ」開始直前。
- アダム:
イヴ!お願いだからやめてくれ!君とこれ以上言い争いたくない!
- アダム:
極秘裏に進めていたプロジェクトをどうして知ってるんだ…!
- アダム:
あの実験はとっくの昔に廃棄したはずなのに……!
- エヴァ:
落ち着いて、感情的にならないで。
- アダム:
君は自分が今何を言っているのか解ってるのか……?
俺に君を切れって言っているんだぞ!! - エヴァ:
アディ、私もあなたにそんなことをさせるのは辛いし、悩んだわ……
アミーナちゃんともしっかりと話し合った。 - :
- するとそんなところにジソクの足音が近づいてきた。
- :
- 気味が悪いほどに落ち着いているエヴァ。
アダムは深いため息を吐いて何度も顔の冷や汗を拭く。 - ジソク:
何だよ?珍しいな、夫婦喧嘩なんて。
- アダム:
ジソク、ちょうどよかった…お前が話してくれた方がいい。説得してくれ…
- :
- アダムは真っ青な顔でそう言った。
- ジソク:
…説得?……どうした?
- エヴァ:
ジソク君…私、バイオロイドの実験に参加したいんです。
- アダム:
ダメに決まってるだろ!ダメだダメ!聞きたくない!
- ジソク:
(…バイオロイド?どうしてこの女がそれを知ってる…?)
- アダム:
イヴ……!俺の話を聞いてくれ……それは普及を目指したものじゃないんだ……!
- アダム:
それは一人のためだけに……!
- :
- アダムの唇は震えていた。
- アダム:
そうだ!俺が君だけのために新たな技術を作ってみせる…!だからやめてくれ!
- エヴァ:
落ち着いて、あなたは今興奮しすぎてるわ。
- アダム:
オリジンダストが活性化させた変異細胞外基質と遺伝形質との衝突を
最小化させるためには、一人一人のDNA鎖をすべて代入する必要があるんだ! - :
- アダムと長い付き合いになるジソクも彼がここまで憤慨する姿は
見たことがなかった。 - ジソク:
…エヴァさん、アダムに代わって単刀直入に言いましょう。
- ジソク:
今、あなた方夫婦も大変な時期で、精神的にも参ってるのでしょう。
- ジソク:
そのくらいまだ妻がいない私にも分かります。
- ジソク:
愛する人のために実験台になろうという意思は素直に尊敬に値します……
- ジソク:
ですが‘NNEI’ 技術とは、何もかもが違う実験です。
それは理解していますよね? - エヴァ:
もちろん理解しています。皆と一緒に今の三安を作ってきたんですから。
- エヴァ:
だからこそ、三安の…アダムの最初のバイオロイドとして
私の名前を残したいんです。 - エヴァ:
プロジェクトの成否関係なく……
- エヴァ:
どんな形でもいい……アディと一緒に名を残すことができるなら……
- ジソク:
肉の器に生きている人間の脳を移植するなんて行為……
それはもう神の領域なんですよ! - ジソク:
ただ愛しているからという理由で、そんな犯罪行為に三安を巻き込むんですか!?
- エヴァ:
自分の男を神にしてあげられるのなら、なおさら迷う必要はありません。
- アダム:
そんな簡単に上手くはいかないんだよ……
ここまで止めるのにはちゃんと理由があるんだ! なぁ!ジソク!! - ジソク:
やっと可能性が見えてきた程度の超初期段階だということを解かっていながら、
こんな無謀なことをただ男のために買って出るだなんて…… - エヴァ:
ジソク君なら…きっと賛成すると思っていたのですがね。
- :
- 張り詰めた静寂が訪れる。
- :
- エヴァはジソクを見透かすような冷たい目つきで見ていた。
それに気が付いたジソクは、急に無表情になって口を開く。 - ジソク:
人工生命体ではなく、生きている人間を使った反道徳的な生体実験をした
という事実が大衆に知れ渡れば、我が三安産業はイメージ失墜による 計り知れない大損害を被ることになる。 - ジソク:
これが最大のネックです。
- ジソク:
成功しても失敗しても、結果は損の方がはるかに大きい。
- ジソク:
ただでさえ‘NNEI’が普及してからというもの、強化人間特別法だとか
色々と言われているこの状況で… - ジソク:
三安がわざわざ先頭に立って大衆から袋叩きに耐えなければならない理由なんて
ないですよ。 - ジソク:
もし間違って倒産でもしてしまえば、あなた方夫婦も路頭に迷うことになる。
- ジソク:
今はこうやって皆が反対しているんです……
- ジソク:
ここは空気を読んで引き下がった方がお互いのためになるんじゃないかと
思いますよ……私は。 - ジソク:
な?
- :
- ジソクがアダムの肩に腕を回して笑顔を浮かべる。
それを見たアダムは恐怖を覚え、体が勝手に震え始めた。 - アダム:
お前、何を言っているんだ?俺が言いたいのはそんな損得の話じゃない……!
- エヴァ:
レイチェルちゃんの話、聞きました。
- ジソク:
……!
- エヴァ:
NNEI施術以降も状態が好転しないレイチェルちゃんのように、
現代医学ではどうすることも出来ない不治の病を克服するためにも、 この実験は避けられないということは認識してるでしょう? - エヴァ:
私もNNEI施術以降、これといった好転の兆しはありません。
- エヴァ:
肉体を放棄する理由が明確な“都合のいい実験体”を前にして、
こんな風に無駄な議論で時間を浪費しているなんて、 とても未来技術産業の代表とは思えませんね。 - エヴァ:
実験後も私の肉体と精神が健在なら、三安産業の生きた技術の結晶として、
研究にも協力しますから。 - アダム:
エヴァ……!
- ジソク:
はぁ、何か勘違いしてないか……?
- ジソク:
このプロジェクトはアンタのためのモノじゃない!!
- アミーナ:
アダム代表、お話し中に申し訳ありません……
アメリカ支社の方にセッティングが完了したとの連絡がありました。 - アダム:
…アミーナ、エヴァを連れて行ってくれ。
- アダム:
そして、ジソク……
- アダム:
時々お前が遠く感じる時があるよ。
- アダム:
レイチェルのことは……本当に残念だと思ってる。
- アダム:
でも、ジソク……俺たちは出来ることは全部やった。だろ?
- アダム:
こんな事はレイチェルも望まない……
- アダム:
ジソク、頼むよ……
- :
- アダムの言葉を半ば無視してジソクはその場を去った。
- :
- ジソクは事業の拡大だけでなく、レイチェルの病を放置しているアダムの
呑気さに心底ウンザリしていた。 - :
- エヴァのあの見透かすような視線がまたジソクの脳裏をよぎる。
- :
- ジソクはエヴァの幻影から逃げるようにレイチェルのいる病室に向かった。
- :
- まるで死んでいるように眠っているレイチェルのベッドの横に腰を下ろす。
- ジソク:
(やっぱりまだ目覚めないんだね……)
- ジソク:
(今日は悪夢を見ていないみたいだ)
- ジソク:
(最近では一番楽そうな顔をしている……)
- :
- 彼女の顔を見ていると、ここまで夢中で頑張ってきた日々のことを思い出す。
- :
- あの“兄弟”は本当に同じ場所を目指して立っていたのだろうか…?
- ジソク:
レイチェル…どうすれば君を救うことができる……
- 影:
彼女をあきらめるのか?
- ???:
ふふふっ……
- レイチェル:
誰と話してるの……?
- レイチェル:
ここには私とあなたしかいないわよ~?
- レイチェル:
「レイチェル…どうすれば君を救うことができる……ふぇぇん……」だって!
- レイチェル:
ぷはっ!!
- :
- ジソクは耳を真っ赤にして、恥ずかしさを誤魔化すためにレイチェルの髪を
クシャクシャとかき乱した。 - ジソク:
どうして眠ってるフリなんてした?
- ジソク:
もう…起きたらちゃんと連絡してって言っただろ?
- :
- その時、看護師がノックもなしにドアを開けて部屋に入ってきた。
- 看護師:
!!!
- 看護師:
ああ!申し訳ありません!!誰かがいるとは思わず……
- レイチェル:
ジソク…誰……看護師さん?
- ジソク:
なんだお前は!?ナースコールなんて押してないぞ!!
- ジソク:
患者が驚いてるだろう!こんなにセキュリティがずさんでいいのか!!
- 看護師:
すみません!本当にすみません!!空いている病室を掃除しにきたのですが…
何かの手違いで部屋を間違ってしまったようです!! - ジソク:
まったく、ミスが多すぎだろ!本当に……
- レイチェル:
ジソク……もう怒らないで……ね?
- :
- ジソクが汚いものを払うように手を振ると、看護師は深々と頭を下げ、
慌てて部屋を出ていった。 - レイチェル:
今日はずいぶん機嫌が悪いね?何かあった?
- ジソク:
君がもっと早くに連絡してくれたら、もっと心穏やかにいられたよ……
- レイチェル:
あなたも兄さんも最近すごく忙しいみたいだったから、
私が連絡しないでってお願いしたのよ… - ジソク:
何度も言ってるだろ?君からの連絡はいつでも大丈夫だって……
- レイチェル:
分かってるわ。ごめんね…怒らないで?
- レイチェル:
ジソク……
- レイチェル:
また何か悩んでる?
- レイチェル:
昔から悩みがあると、何日も一人で悩んでカリカリし出すでしょ?
それで結局私のところに相談に来る。 - レイチェル:
これはもう相談料もらわないとねぇ~?
- ジソク:
…何言ってるんだよ。
- レイチェル:
ではでは~、今夜もレイチェルのお悩み相談所をオープンしましょ~!
- レイチェル:
なんと今なら相談料無料です!
- レイチェル:
今日はどうされましたか?
- :
- 少し機嫌が直ったジソクは、ぎこちなく笑ってレイチェルを見つめた。
- :
- しばらく見つめ合うまま彼は口を開かずにいた。
- レイチェル:
ネロ~、いい子だから話してみて?美味しいツナ缶をあげるわよ~
- ジソク:
久しぶりだね……その呼び方。
- :
- 彼女の前では優しい嘘でさえ躊躇ってしまうジソクは、
悩みを何とか脚色して話すことにした。 - ジソク:
まぁ…大したことじゃなくて。
- ジソク:
ちょっとした知り合いの話なんだけど……
- ジソク:
何かの犠牲なしには大切なものを守れないとしたら……
- ジソク:
どうすればいいんだろうって……。犠牲に耐えるべきなのか……それとも……
- レイチェル:
うーん……思ったより難しくて哲学的な悩みね?
- :
- しばらくの間、自分だけの世界に入ったように黙り込んだレイチェルは、
ふと窓の向こうの何かを指差した。 - レイチェル:
ねぇ、ジソク、あそこ見て。
- ジソク:
…何もないけど?
- レイチェル:
もう、ちょっとちゃんと見て!あそこに花が見えない?
- :
- レイチェルが指差す先には、一輪の花が生えていた。
- ジソク:
うん、見えた。あれはデイジーだね。
- レイチェル:
花言葉知ってる?
- ジソク:
ええと…確かではないけど、平和とか純潔?
- レイチェル:
もう、ジソクは頭がいいから面白くないなぁ…
- レイチェル:
でも、これは分からないんじゃない?
- レイチェル:
あの“シャスタデイジー”は、頑張ってる人や病気の人に平穏と幸福を祈るって意味で
贈ったりするんだって。 - ジソク:
野生の花を?
- レイチェル:
デイジーはアスファルトの上でも育つくらいに生命力が強いから。
- レイチェル:
だから“希望”って花言葉を持っていたりするみたい。
- レイチェル:
正直、ジソクが言う犠牲がどんな犠牲なのかよく分からないけれど……
- レイチェル:
犠牲というのは絶対に正当化されちゃダメだと思う。
- レイチェル:
……ジソクが自分を犠牲にしがちなのは私のせいだって知ってる。
- レイチェル:
犠牲になってる人のそばで何もしてあげることができない苦しみは……
- :
- レイチェルは涙声を必死に堪えて、明るい笑みを見せる。
- レイチェル:
大切なものを守ることができるんなら、犠牲も決心できると思う。
少なくとも私はそう。 - レイチェル:
私はその人を応援してあげたいと思うよ。
- :
- ジソクはその言葉に背中を押されたと同時に、脳裏に稲妻が走った。
- :
- エヴァはジソクが自分の提案に乗ってくると分かっていたのだ。
- :
- あの短い会話の中でジソクはエヴァに公然と脅迫されていたというわけだ。
- :
- 「ジソク、お前がアダムを説得しろ」と……
- :
- 実験を行えば結果など関係なく、アダムとエヴァは人類のためにその身を
捧げた英雄として記憶され、自分は実験を強要した極悪人に堕とされる未来が 漠然と頭に浮かんだ…… - ジソク:
(犠牲の中には僕も含まれていたということか……)
- ジソク:
(本当に油断ならない女だ……エヴァ・ジョーンズ……)
- ジソク:
……
- ジソク:
…僕はもう帰るよ。話を聞いてくれてありがとう。
- レイチェル:
大丈夫?ジソク……顔色が悪いよ……?
- ジソク:
いや、大丈夫だよ。君の話を聞いているうちに色々と考えがまとまっただけ。
- レイチェル:
そっか!役に立てたみたいで嬉しい。
- :
- ジソクはこんな些細なことで喜んでくれるレイチェルの命の希望を
絶やさないために、このエヴァの筋書きにあえて乗る覚悟を決めた。 - ジソク:
ねぇ、レイチェル…
- ジソク:
全部上手くいったら僕と一緒に……
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- ジソクは言葉が詰まり、少し虚ろな笑みを浮かべる。
そして、とうとう最後まで言うことができないまま部屋を後にした。 - :
- ……彼が去った後の部屋には、再び真っ暗な静寂が訪れた。