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Transcription
- レイチェル:
お兄ちゃん!
- レイチェル:
ネロお兄ちゃん!
- ジソク:
…?
- ジソク:
(どういうことだ……?)
- レイチェル:
お兄ちゃん!
- ジソク:
(レイチェル…?)
- ジソク:
…どうした?そんなに慌てて。
- レイチェル:
何言ってるの…?
- レイチェル:
お兄ちゃんが宿題教えてくれるって言ったんじゃない…!
- ジソク:
あ…
- ジソク:
そうだったね、ごめん。ちょっとぼーっとしてたみたいだ。
- :
- 心地良い風がジソクの髪を揺らす。
- レイチェル:
ねぇ……
- :
- のんびり流れる雲をぼんやりと眺めているジソクを、
レイチェルは頬を膨らませて睨む。 - レイチェル:
ねぇ……正直に言って。
- レイチェル:
ネロお兄ちゃん、私と宿題したくないんでしょ?
- ジソク:
うん。
- レイチェル:
もー!
- レイチェル:
ジョンお兄ちゃんにネロお兄ちゃんと勉強してくるって言っちゃったじゃん!
- レイチェル:
お兄ちゃんが宿題してからじゃないと遊ばないって言ったんだよ!
- レイチェル:
「レイチェルぅ、宿題しないんなら一緒に遊んであげないよぉ」って~!
- :
- レイチェルはジソクの真似をして低い声でぼそぼそ喋っていると、
おかしくなったのかクスクス笑い始めた。 - :
- ジソクはそんなレイチェルをぼーっと見ていると……
- ジソク:
(レイチェルの頬っぺた…今日はやけにぷくぷくしてるな…)
- :
- ジソクは思わず向かい合って座るレイチェルに手を伸ばし……
- :
- 綿のような頬を撫でた。
- ジソク:
かわいい。
- レイチェル:
…!?
- ジソク:
…!!!
- :
- レイチェルの頬はみるみるうちに桃色に染まる。
- ジソク:
いや……今のは…そうじゃなくて……
- レイチェル:
…
- ジソク:
…
- ジソク:
…宿題。
- ジソク:
宿題…しないと、
- ジソク:
(僕がレイチェルを好きになったのは多分……)
- ???:
ご主人様!
- ???:
ご主人様?
- ジソク:
……
- ジソク:
(…夢か……)
- ジソク:
(最近よく眠るようになった……)
- コンスタンツァS1:
ジソク会長!
- ジソク:
……ああ、
- ジソク:
なんだ?
- コンスタンツァS1:
それが……
- コンスタンツァS1:
アダム会長…あ、いや……アダム・ジョーンズさんが……
- ジソク:
アダム?あいつがどうした…?
- コンスタンツァS1:
…あの……
- ジソク:
…何か言いにくいことなのか?
- ジソク:
…言え。
- コンスタンツァS1:
昨夜、拉致されたそうです……
- ジソク:
……!
- ジソク:
拉致……?
- ジソク:
一体誰が!?
- ジソク:
何のために!?
- コンスタンツァS1:
ブラックリバー代表、アンヘル・リオボロスから三安産業の核心技術の開示を
要求する脅迫状が届いています。 - ジソク:
うちにか?アダムはもう三安所属じゃないが?
- コンスタンツァS1:
…これについてはアミーナ・ジョーンズが対応している模様ですが、
今のところエヴァは投入されていないようです。 - ジソク:
…あの女……
- ジソク:
なんだ?ラビアタを救出に向かわせろとでも言いたげだな?
- コンスタンツァS1:
…アダムさんの生死がかかっているようですし……
- ジソク:
それは私に命令しているのか?
- コンスタンツァS1:
ち、違います!ご主人様!
- ジソク:
そういう生温い情で生きてるから、拉致なんかされるんだよ!
- ジソク:
ラビアタは三安そのものだ!そんな事のために使うわけないだろ!
- ジソク:
量産型のガラクタには永遠にわからないだろうな……
- ジソク:
わかったか?わかったならさっさと消えろ!!
- コンスタンツァS1:
……
- ジソク:
(アダムが拉致された……?)
- ジソク:
(…まさかアンヘルの下につくつもりじゃないだろうな?)
- ジソク:
(とりあえず調べてみるべきか……)
- :
- ジソクは様々な可能性に思考を巡らせる。
- ジソク:
(……)
- :
- そして、ジソクはある場所に向かう。
- :
- そこはジソクすら入ることを制限されていたアダムの研究所だった。
- ジソク:
……
- ジソク:
ブラックリバーが荒らしたあとか……
- ジソク:
はぁ……あいつら、相当必死みたいだな。何もかもひっくり返して……
- :
- ジソクは腕をまくりをし、見るも無残に荒らされた部屋を調べることにした。
- :
- 数時間後、ジソクは結局何も見つけられずに床に座り込んでいると…
- :
- 床に妙な切れ目を見つけた。
- :
- その切れ目を慎重に辿っていくと、一部分だけ不自然にくぼんだ部分があり、
明らかに何かの仕掛けがありそうだった。 - :
- そして、その部分を力いっぱい踏むと地下へと続く通路が現れた。
- ジソク:
……これは発見できなかったみたいだな。
- システム:
ごきげんよう、アディ。
ここから先は最高レベルのセキュリティが起動します。 パスワードをどうぞ。 - ジソク:
はぁ……
- ジソク:
……
- ジソク:
PASSWORD123?
- システム:
ちなみにパスワードは累積3回のエラーで保存されているすべてのデータが
初期化されるように設定されています。 - ジソク:
ご丁寧にどうも。
- ジソク:
まぁクラウドの暗証番号なわけないだろうし……
- ジソク:
おい、A.I. お前の名前は?
- システム・エデン:
“エデン”とお呼びください。
- ジソク:
秘密のお部屋にしては大層な名前だな。
- システム・エデン:
パスワードをお願いします。ちなみに二回目の入力となります。
- ジソク:
ねだる女は嫌われるぞ?知らないのか?
- システム・エデン:
統計上、引きずる男こそ嫌われるかと。
- ジソク:
……
- :
- ジソクは入口の前で腕を組み、深く考え込んだ。
- ジソク:
……
- ジソク:
(落ち着け。あいつは単純だ)
- ジソク:
(難しく考える必要はない……)
- ジソク:
……
- ジソク:
2048……
- システム・エデン:
ようこそ、“エデン”へ。
- ジソク:
…!
- ジソク:
ははは…
- :
- ジソクは半分呆れたように笑いながら通路に足を踏み入れた。
- システム・エデン:
秘密基地……
- システム・エデン:
素敵だと思いませんか?
- ジソク:
…アダムは子供の頃、自分の研究所には……
- ジソク:
こういう秘密の場所を作ると言っていたな。
- ジソク:
…まぁ今となっては無意味な思い出だが…
- システム・エデン:
この世に無意味なものなど一つもありませんよ。
- :
- ジソクはメインコンピューターの前に座る。
- ジソク:
アダム……
- ジソク:
お前はいつも私がオリジンダストの事を聞いても、明確に答えてくれなかった。
- ジソク:
兄弟だとか言いながら、隠し事ばかりだった。
- ジソク:
…今こそ、すべてを教えてもらうぞ。
- ジソク:
エデン、保存されている記録を時系列順に再生させろ。
- システム・エデン:
はい、記録ナンバー20660601を再生します。
- アダム(ホログラム):
……まず、この記録が誰かに発見されることがあるのかは分からないが……
- アダム(ホログラム):
俺にはもう時間があまり残っていない……
そんな気がする。 - アダム(ホログラム):
だからこの記録を残す。
- アダム(ホログラム):
俺は実の妹であるレイチェル・ジョーンズの病を治療するために
研究を始めた。 - アダム(ホログラム):
今後の記録では、便宜上俺が仮定した名称を使うことにする。
- アダム(ホログラム):
イリアスに登場する“ヒュプノス”から名を借りて、
“ヒュプノス病”と呼ぶことにしたこの疾患は…… - アダム(ホログラム):
レイチェル・ジョーンズが経験した症状を総称する。
- アダム(ホログラム):
具体的な病状だが……
- アダム(ホログラム):
現代医学では説明することができない疑似ナルコレプシーで、
- アダム(ホログラム):
異常な睡眠発作という共通症状に加えて、過度なレム睡眠状態を維持するという
特異性でこれを識別する。 - アダム(ホログラム):
ノンレム睡眠に突入することはできず、正しく休むことができない肉体は
日に日に弱っていき…… - アダム(ホログラム):
オレキシンの濃度がゼロへと収束することになり、
生命維持に必要な新陳代謝機能が急速に破壊される。 - アダム(ホログラム):
…当時、キム・ジソクと二人で彼女の治療法模索のために資金をかき集め、
三安を立ち上げて研究を行っていた。 - アダム(ホログラム):
そして、脳せき髄液の変異を疑っていた中で……
オリジンダストが肉体の基礎になり得るのでは?という発想に至った。 これはオリジンダストの大部分がたんぱく質で構成されているからだ。 - アダム(ホログラム):
オリジンダストが生命を維持するための持続的なエネルギー供給源となれば、
新陳代謝機能が破壊される問題も解決できる。 - アダム(ホログラム):
それからの研究はすべてオリジンダストの活用を主軸に進むことになる。
- アダム(ホログラム):
ただし…オリジンダストを使用するのなら、その発生源だけでなく
一定の供給が可能かどうかについても検討する必要があった。 - アダム(ホログラム):
オリジンダストは2032年には商用化されたものの、一般に普及するまでは
とんでもない価格だったからだ。 - アダム(ホログラム):
次に発生源だが、オリジンダストの初期段階の構想は少数のエリートたちで
構成された秘密組織で共有されていたそうだ。 これは恩師から聞いた情報だ。 - アダム(ホログラム):
その組織の名は「ザ・ファースト(THE FIRST)」…
- ジソク:
ザ・ファースト……
- アダム(ホログラム):
“ザ・ファースト”は特異物質のアミノ酸を精製してオリジンダストを作った。
- アダム(ホログラム):
特徴としては鉱物と判断されるこの特異物質の正体については
分からないことが多かった。 - アダム(ホログラム):
詳しく調べてもロシアの港町で装飾用鉱物として闇取引されていた記録しか
見つけることができなかった。 - アダム(ホログラム):
信じられなかったのは、この鉱物の中で生物が観察されたという点だ。
- アダム(ホログラム):
自然光によって光る天然鉱石とは全く違い、生き生きとしていて、
肉眼でもしっかりと見分けられるほどだったらしい。 - アダム(ホログラム):
冬虫夏草のような菌類ではないかと推定しているが、
- アダム(ホログラム):
複合鉱物でもないのに、生物がどの部分を養分にして寄生するのか……
- アダム(ホログラム):
幸い、当時粘り強い研究が行われ、非常に参考になる結果が出ている。
- アダム(ホログラム):
冬虫夏草菌体が宿主の中枢神経に侵食しないという特徴と
同様の反応が被験者にも現れたとのことだ。 - アダム(ホログラム):
今からでもこの理論をもとに再確立した俺の仮説を証明できれば……
- ジソク:
…!
- システム・エデン:
記録ナンバー20660601を終了します。
- システム・エデン:
記録ナンバー20660602を再生します。
- アダム(ホログラム):
…バイオロイドの製作は実は簡単である。
- アダム(ホログラム):
用意した骨格に、今は“遺伝子の種”という名前で取引されている塩基配列レシピを
オリジンダストと共に脳内に代入する。 - アダム(ホログラム):
当時は普遍的に使用できるような塩基配列の細かい配合比というものが
見つけられず…… - アダム(ホログラム):
実際の人間のDNA鎖を代入する過程が必要だと判断した。
- アダム(ホログラム):
オリジンダストがエネルギー源として消費される過程で、
膨大な回数の細胞分裂が促されるが、 - アダム(ホログラム):
これは我々が良く知っている“誕生”や“治癒”といった生命活動と似ており、
その速度は極めて早い。 - アダム(ホログラム):
この時に必要な部分に手を加えることで、肉体はもちろん精神的な部分にすら
限界を超えさせることが可能になる。 - アダム(ホログラム):
今のバイオロイドは当時の欠点を補い、死んだ状態の脳を再活性化する形で
製造している。 - アダム(ホログラム):
つまり、オリジンダストの生命力を偽の脳に付与し、
本物の脳のように生き返らせるということだ。 - アダム(ホログラム):
そして、その過程で一部の配合比を変更したり、塩基配列を補正できる素材を
追加する形で数億にも及ぶ多様な自我を作ることができる可能性まで確認している。 - アダム(ホログラム):
…多くのものを失ってでも、
- アダム(ホログラム):
プロジェクトの結実を…
- システム・エデン:
記録ナンバー20660602を終了します。
- システム・エデン:
記録ナンバー20660603は消失しました。
- システム・エデン:
記録ナンバー20660604は消失しました。
- ジソク:
…はぁ!?このクソA.I.!誰もそんなこと許可してないぞ!
- システム・エデン:
記録ナンバー20660605の一部を修復しました。
- アダム(ホログラム):
______脳を構成する神経伝達物質_________ ほとんどは_________ 作られる。
- アダム(ホログラム):
___________新たに発見________物質______が出来 __________
- アダム(ホログラム):
そのうわさを頼りに____________ 隠されていた_____二つを
手に_____できた… - アダム(ホログラム):
___________研究室_____保管…
- :
- ジソクは倒れていた棚を慌てて持ち上げる。
- :
- それと同時に棚に入っていた色々なものがジソクの頭の上に落ちてきた。
- アダム(ホログラム):
______形態を変える____________既に知られている____ダストである…
- アダム(ホログラム):
まるで柔らかく、物理的な力を____________石のような ___________
- ジソク:
どこだ!どこにある!
- ジソク:
「二つを保管」って言っただろ!どれだ!!何のことだ!!
- ジソク:
チッ!!アダム!!!
- :
- ジソクは血眼になって床に散らばった物を漁ると、一つのケースを見つける。
- アダム(ホログラム):
空気中では、________________なくなる_______持っていて…
- アダム(ホログラム):
完全に保存する_______________作られたオリジン_____
ケース_____保存法だけだった… - アダム(ホログラム):
______イヴ……だから俺を_________2番目…アベル____________ 許して…
- システム・エデン:
記録ナンバー20660605を終了します。
- システム・エデン:
記録ナンバー20660606は消失しました。
- システム・エデン:
記録ナンバー20660607は消失しました。
- システム・エデン:
楽園追放プロトコルを実行、再生された記録は直ちに消去されます。
- システム・エデン:
プロトコル進行中、60分後に“エデン”は動作不可状態に移行します。
- :
- ジソクは手にしたケースを自分のポケットに入れる。
- ジソク:
…レイチェル。
- システム・エデン:
…消失データを確認中。
- システム・エデン:
楽園追放プロトコルを停止します。
- システム・エデン:
追加の記録を再生します。
- システム・エデン:
記録ナンバー00000000が一部復元されました。
- ジソク:
…再生しろ。
- アダム(ホログラム):
…俺が殺した。
- ジソク:
…?
- ジソク:
……急にどうした……?
- アダム(ホログラム):
…
- アダム(ホログラム):
俺が殺した。
- アダム(ホログラム):
…俺が自分の手で引き金を引いて妹を殺した。
- ジソク:
…!?
- ジソク:
あ?
- ジソク:
何言ってるんだ…?アダム……はは……ハァ?
- アダム(ホログラム):
“人類の未来のために”という免罪符を胸に……
- アダム(ホログラム):
治療できる可能性が全くない“ヒュプノス病”が伝播することを危惧した。
- アダム(ホログラム):
アミーナに助言をもらいながら何度も…何度も悩んだ。
- アダム(ホログラム):
…………
- アダム(ホログラム):
俺の行動が…間違っていることは……
- アダム(ホログラム):
…………
- アダム(ホログラム):
大切な妹だけでなく、愛する妻でさえ守ることができなかった俺は……
最悪な人間だ。 - アダム(ホログラム):
……そのあとはリオボロス家のおかげで思った以上に事は上手く運んだ……
- アダム(ホログラム):
俺はレイチェルの兄という理由だけで容疑者から外れることができ……
- システム・エデン:
記録ナンバー00000000を終了します。
- システム・エデン:
プロトコルを再開します。
- ジソク:
……
- ジソク:
…おい!!!オイ!!!!!!!!!
- ジソク:
アダムッ!!見てるんだろ!!!
- ジソク:
さっさと出てきて説明しろッ!!!!!!!
- ジソク:
殺してやる……!!!
- ジソク:
絶対、殺してやるッ!!!!!
- ジソク:
あの事件に関わった奴ら全部!!!!
- ジソク:
全部殺す!!!!!!
- ジソク:
アダム!!!お前が守ろうとしたこのクソみたいな世界もな!!!!
- ジソク:
僕の手で全部…!壊してやる……!
- ジソク:
全部…全部、全部、全部、全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部…! - :
- そうやってその日、“影”がジソクを埋め尽くした。
- 影:
あとは“私”に任せればいい…
- 影:
心配するな…
- 影:
お前が最も悲しんだあの時も…
- 影:
お前が最も願ったあの時も…
- 影:
そばにいたのは……
- 影:
“私”だったのだから……