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Transcription
- 全身が軋む…
- 手探りで水を探してみたが、枕元のボトルはすでに空っぽだった。
- うう~ん…
- 仕方なくガンガン響く頭を押さえながら体を起こした。
- 体を動かしたら微かに残っていた昨夜の…いいや、数時間前の記憶が甦った。
- 確か…パーティーが終わって、オルカに戻って…
- 打ち上げと称して集まってお酒を飲んでいた隊員たちと同席することになって…
- ……
- …そこからは記憶がない。
キルケーから勧められたお酒を飲んだと思うんだけど… - 思い出そうと少し唸ってみたが、やはり何も思い出せない。
- 結局諦めてボトルを持って艦長室から出る。
- フラフラとキッチンに向かって歩いていると、静まり返った通路の向こうから
誰かが歩いてきた。 - 迅速のカーン:
ずいぶんと早起きだな、司令官。
- 迅速のカーン:
それとも逢瀬か?
- いや、喉が渇いて。それより…
- 主人公:
- カーンの顔を見ると、少し違和感を感じる。
- ウォーペイントが…?
- 迅速のカーン:
ああ、司令官は初めて見るのか。
- 迅速のカーン:
内部パトロールだったからな、塗ってないだけだ。
- 一人で働いてるのか?
- 迅速のカーン:
今夜は各隊長と副官たちでシフトを組むことにした。司令官はお楽しみ中で
報告を聞く余裕がなかったようだがな。 - ……
- 主人公:
- カーンの冷たい声でやっと思い出した。確か、途中で他の隊員たちも
合流してきて… - あ…
- 迅速のカーン:
パーティーの時は、私たちのことを大切な家族だと言っていたようだが…
司令官は家族とあんなことをするんだな? - 主人公:
- 俺は何と言えばいいのかわからず慌てていると、
厳しい顔をしていたカーンはふっと表情を緩めた。 - 迅速のカーン:
冗談だ。
今すぐにではないにしろ、それは人類再建の為には必要なことだからな。 - はは…
- 主人公:
- だんだんと顔が熱くなってきて目を泳がせているとカーンは続ける。
- 迅速のカーン:
私たちバイオロイドは、基本的に人間を愛するように作られているだろ?
- 迅速のカーン:
しかし、今のオルカの隊員たちの姿を見ていると…
私は少し違うような気もしてきた。 - 迅速のカーン:
だから、あまり気にするな。
どんな形であれ司令官と一緒にいるだけで隊員たちは幸せだと思う。 - …うん。
- 主人公:
- さっきとは違う意味で顔が熱くなる。
- 迅速のカーン:
では、私はパトロールを続ける。司令官は…
- 主人公:
- カーンの視線が俺の持っているボトルに向けられた。
- 迅速のカーン:
ふむ、おやすみ。
- ありがとう。ご苦労様。
- 主人公:
- 微かに笑顔を見せて通路の向こうへ消えるカーンを見送った後、
俺は再びキッチンのある食堂へ足を運ぶ。 - 主人公:
- ドアを開くと食堂は薄暗い闇に包まれていたが、
食卓の向こうにあるキッチンは照明が点いていて、何やら物音が聞こえてくる。 - 主人公:
- 誰かが片付けてくれているのか?
- 主人公:
- 食堂を突っ切ってキッチンに入ると…
- …ラビアタ?
- ラビアタプロトタイプ:
…あ、あら?
- 主人公:
- 鼻歌を歌いながらキッチンを片付けていたラビアタが俺を見ると
気まずそうに目を丸くする。 - 久しぶりだな。
- ラビアタプロトタイプ:
はい…
- 主人公:
- あの時の罪悪感からか、あれから今までラビアタは俺と顔を合わせることを
避けているようだった。 - 主人公:
- パーティー会場でも見かけなかったから、またの機会にでもと思っていたが、
こんな偶然もあるものだな。 - 一人で仕事しているのか。
- 主人公:
- ついさっき話をしたカーンのことを思い出して聞いてみると、
ラビアタが小さく頷いた。 - ラビアタプロトタイプ:
大丈夫です。もうすぐ終わりますので。
- 主人公:
- その言葉通り、キッチンはすでに綺麗に片付けられていた。
- 主人公:
- これも自分自身への罰というやつか…。
- まだ自分を許せないのか?俺は全然気にしていないのに…。
- 主人公:
- ラビアタは俺にもう十分償っている。
逆に助けられすぎておつりが出るほどだと思う。 - 主人公:
- しかし、当のラビアタはそう思っていないようで、ゆっくりと首を横に振った。
- ラビアタプロトタイプ:
…申し訳ございません。今はまだ…
- …わかった。本人の意思が固いのなら仕方ない。
- 主人公:
- ラビアタは唇を噛んで俯いた。
- 主人公:
- 何かいい方法はないのかと考えていたら、
ちょうど良いアイデアが思い浮かんだ。完璧とは言えないが、少しは効果が あるかもしれない。 - 今自分に罰を与えている。そうだな?
- ラビアタプロトタイプ:
……はい。
- なら、俺が手伝ってやる。
- 主人公:
- 俺のその言葉にラビアタはいよいよこの時が来てしまったのかと
覚悟するように、無言でエプロンを握った。 - 主人公:
- その姿を見て、笑いが込み上がってくるのを押し殺して椅子に座り、
迫力を出すために食卓の上に足を乗せた。 - 俺、飲みすぎてちょっと気持ち悪いんだよ。
- ラビアタプロトタイプ:
はい?
- お腹に優しい食い物作ってこいよ。スープだスープ。
- 主人公:
- 俺の渾身の演技をぼーっと見ていたラビアタの口元に、
あの日以来初めて笑みが見えた。 - 早くしろよ。俺は腹減ってんだよ。
- ラビアタプロトタイプ:
はい。少々お待ちください。
- ラビアタプロトタイプ:
………ご主人様。
- あぁ…お前の分も忘れんなよ。一人前も二人前も変わらないだろ?
- ラビアタプロトタイプ:
ふふっ…。はい、ご主人様。
- 主人公:
- 嬉しそうに答えて踵を返し、キッチンの奥に向かおうとしたラビアタだったが、
急に立ち止まった。 - ラビアタプロトタイプ:
あ、あのご主人様…
- 何だ?
- ラビアタプロトタイプ:
誰もいないし、少し暑かったもので…少々ラフな格好で作業していたのですが…
着替えて来ても…よろしいでしょうか…? - うーん…
- 主人公:
- ラビアタもそんな格好をするのかと珍しく思っていたが、
どうやら人前では恥ずかしいらしい。 だったら… - いいわけないだろう。
- ラビアタプロトタイプ:
はい…
- 主人公:
- 俺がニヤリと笑って答えると、ラビアタは残念そうに肩を落として
キッチンに向かった。 - 主人公:
- 体に比べて布面積が小さいエプロンを着て料理をするラビアタを眺めつつ、
食堂の壁にかかった時計に目をやる。 - 主人公:
- 仕事が始まる時間まではかなり余裕があるけど、今まで話せなかったことを
語り合うにはあまりにも足りない。 - 主人公:
- それにいくらなんでも食卓に足を乗せるようなお行儀の悪い姿を
チビッ子たちに見せるわけにはいかないからな。 - 主人公:
- 俺は立ち上がって、キッチンに向かう。
すると、ラビアタはさっきよりも楽しそうに鼻歌を歌っていた。 - ラビアタプロトタイプ:
大丈夫です。ご主人様は食堂の方でごゆっくりお待ちください。
- 別にお前の手伝いに来たわけじゃないんだからな。
- 主人公:
- 少し前の誰かの真似みたいになってしまった。
- 主人公:
- その効果は抜群だったらしく、
ラビアタはそれを聞いた時の俺みたいな顔になっていた。 - 俺が早く食べたいだけなんだから、勘違いするんじゃないぞ。
- 主人公:
- ゆっくり近づいてラビアタの顔を覗き込む。
- 主人公:
- 俯いて、顔が前髪に隠れているせいで表情がよくわからない。
- ラビアタプロトタイプ:
………
- ラビアタプロトタイプ:
……ありがとう…ございます…ご主人様。
- 主人公:
- 垂れる髪の隙間から消えそうな小さな声が漏れた。
- 主人公:
- その声が少し震えていたことに気がつかないフリして俺もエプロンを着た。
- 主人公:
- 静かなキッチンに包丁の音だけが響く。
ラビアタは黙って手を動かしているだけ…。 - 主人公:
- 料理が出来上がるまでお互い一言も喋らなかった。
でも、さっきまでの空気とは違っていた。 - 主人公:
- 確証はないが、さっきのやり取りで
ラビアタが自らを罰するために閉じこもった檻から抜け出せたような気がした。